営業部だより
2012年02月08日
【既刊本めざまし 1】 人文を尊重したドイツ/審議会のあり方
原発事故の当事国である日本においてエネルギー政策の転換が遅々として進まないのに比して、周知の通りドイツのメルケル首相は2011年5月の段階で早々と国内原発の廃止を前倒しする方針を表明しました。「この彼我の差はいったい何なのだろう?」 多くの人が抱いたこの疑問に関して、月刊誌『世界1月号』(岩波書店)やインターネット上のニュース番組「マル激トーク・オン・ディマンド」等で非常に興味深い事実が紹介されていました。
それらの報道によると、メルケル首相は、社会学者や哲学者、経済学者、聖職者らからなる「安全なエネルギー供給に関する倫理委員会」を新設し、その倫理委員会が導き出した「技術的に考えうるあらゆる対策を講じても、完全に無くすことのできない残余のリスクが存在する限り、それは社会全体でも負い切れない」との提言を採用したそうです。ちなみに、役所が人事を握っている日本の審議会や委員会とは異なり、ドイツの倫理委員会の人選は政治主導で行われ、原発関連産業の関係者は1人も含まれなかったとか。
このような事実を知らされた時、忽然と現代書館の2冊の既刊本が脳裏に浮かびました(出版業とは面白いものです。時に倉庫を占領する困った存在と映る本たちも、何かの拍子で突然輝きを帯びる可能性を秘めているのですから。これを機に、「既刊本めざまし」と題して、折に触れ、そのような既刊本を紹介させていただきますので、今後ともどうぞよろしくお願い致します!)。まず1冊目は
『越境する環境倫理学〜環境先進国ドイツの哲学的フロンティア〜』です。「絶対的な解」がない環境問題に対峙する現代ドイツ哲学のありようを伝える最良の書です。ドイツの政策転換が、原発の倫理性を問う識者会議の議論を背景にしていたことを鑑みても、ドイツ環境思想のすそ野の広がりを伝える本書は時宜に適っています。
そして、2冊目は
『審議会革命〜英国の公職任命コミッショナー制度に学ぶ〜』(編訳者の日隅一雄氏は、昨年5月に末期がんを宣告されながら東電及び政府の会見に通いつめ、文字通り命を賭けた質問を繰り出し続けたジャーナリスト。本業である弁護士業務をすべて中断させてまで、国民に必要な情報を追究するその姿勢について、上杉隆氏を初め、多くの人が言及しています)。御用学者や官僚OBが既得権の受益者に都合のよい答申を出し続ける日本の審議会制度の度し難さを踏まえ、市民のための行政を実現させるモデルとして、英国の公職任命コミッショナー制度を提示します。この本もまた、ドイツにできて日本にはできない政策転換の検討プロセスを比較する上で、極めて重要で刺激的な示唆を与えてくれます。是非、危機にこそ放たれる既刊本の輝きをご確認ください!