編集部だより
2008年11月10日
アメリカ新大統領決定
旧聞に属するのかも知れないが、最近のニュースとしては、先日アメリカ合衆国の次期大統領が決定したことはやはり大いに注目するべきことだろう。バラク・オバマというまだ若い政治家が来年からいよいよ本格的に国際政治の表舞台に出てくる。これは全世界にとって注目の的だ。彼の政治手腕は勿論のこと、その出自も注目されている。白人だけがアメリカの政権の頂点に立ち続けていた歴史が変わり、あの国が始まって以来初めて白人以外の人物が大統領になったことの影響は今後、世界のさまざまなところで現れてくるのではないか。と書いても「何を今さら」といった感じかも知れない。
しかしアメリカという若い国は、他の国と同様に、先進の気風と頑なな保守性の両面を持つ国であると聞く。その国が「今までと同じでありたい」という気持ちを振り切って、リーダーとしてオバマを選んだことには何か新しいことに挑もうという決意が込められているのだろう。変革を訴えたオバマが卓越した人物であることは間違いないが、彼を支持した人びとの出現こそが本当のビック・ニュースかも知れない。
ただ、この変革への波は今急に始まったものではない。少しずつ積み重ねた変化への動きが今顕在化したという見方もできるだろう。
アメリカ政治史において是非知っておきたいエピソードがある。『大統領をつくった男はゲイだった』(M.リーブマン著、小社刊)はタイトルのままの内容で、あるアメリカ共和党の実力者の手記である。保守派の牙城を守る政治家としてレーガン政権成立をはじめいくつもの共和党政権に大きな役割を果たした保守派の大物が、実はゲイであったという内面を隠していたという話だ。今ならば「ゲイでもいいではないか。何も問題ではないではなか」と言ってやりたい気持ちになるが、これはアメリカの政治・社会の中においては今もなお繊細で複雑な問題なのである。反共と保守、右派と共和党というとアメリカにおいては「だいたい同じ意見を持つ人びと」と括られがちだが、実はその内部にさまざまな差異を持ち、さらにこの著者はユダヤ人という出自も併せ、「保守・民主」という紋切り型の区分けを無効にするような複雑怪奇なアメリカ戦後政治のドロドロとした裏面史を明らかにしている。冷戦時代のアメリカは国内においても文化的冷戦を続けていたのだ。
そんな歴史が長くあったからこそ、今オバマが訴えた「チェンジ」という訴えがアメリカ人に説得力を持ったのかも知れない。現在のサブプライム・ローン問題や中東政策の混迷だけでなく、アメリカは唯一の大国として自分の設定した価値観に自ら疲弊し、一種の自家中毒をおこしかけているのかも知れない。
ではアメリカは「自文化至上主義」という「毒」を中和できる力を持ち得るのか? 新しい大統領が就任するこのときに、ゲイについてカミング・アウトした或る保守派政治家の手記を想起し、改めてアメリカの「変化する力」について考えたいと思う。
日本だって変わらなければならない点はたくさんあるのだから。