現代書館

 著者の扇田さんは東京生まれ東京育ち。「都会人」から一転、長野県で山荘を営んで三〇年を過ぎている。信州・簗場と故郷・東京、更に日本と海外とを行き来する生活の中で、見えてきた田舎と都会の相違点を独自の視点で観察・分析している。といっても難しい○○学ではなく、子ども時代の思い出、長野でのビックリ体験、信州ネイティブのお子さんのエピソード、等々エッセイ風で読みやすい。

 本書は「田舎のススメ」でも「ガイド」でもない。田舎と都会を比較し、異なる点だけでなく相似点も指摘しているところが面白い。

 「都会」「田舎」という対立ではなく、時代・暮らし方・環境・自分の立場……など、色んな視線によって、地域は見え方が変わってくる。絶対的都会/田舎の違いではなく、相対的に「都会さ」「田舎さ」が立ち現われてくるということが、本書を読むにつれてスルスルと分かってくるのである。

 都会から田舎への転居生活で味わったカルチャーショックや「ヨソ者」ならではのエピソードから生まれた、ニッポン分析のためのキーワード「時速4キロ」と「時速50キロ」。この不思議な定規を用いて辺りを見渡せば「知らなかった地元」が見えてくる。田舎に関心のある人、実際移り住んだ人、受け入れる側の人、都会に惹かれている人、そして地域興しにも活用できる、新たな「田舎・都会考」を紹介しているオトク要素いっぱいの一冊である。

 この本の私にとっての効用は、好きなものを二つに増やしてくれたことである。今暮らす東京も、実はとても面白い素敵なところなんだと、新しい感受性を芽生えさせてくれたことだ。

 そして、そんな素敵な東京の隣で、私の地元は、やっぱり世界でいちばん素晴らしいところなのでした。

全記事

GO TOP
| ご注文方法 | 会社案内 | 個人情報保護 | リンク集 |

〒102-0072東京都千代田区飯田橋3-2-5
TEL:03-3221-1321 FAX:03-3262-5906