編集部だより
2009年12月24日
かつてこの国には「藩」という歴史があった
2009年放映のテレビドラマで人気bPだったのはNHK大河ドラマ「天地人」であったそうだ。戦国時代の武将を描いたドラマではあるが主演の妻夫木聰のフェミ男的直江兼続が不思議な魅力を発揮し、歴女にも評判が良かったそうだ。そして今やNHKドラマでは「坂の上の雲」であり、「龍馬伝」が評判である。やはりどちらも主演が二枚目俳優なので、女性も楽しんで見られるだろうし、その結果「大河ドラマはオヤジが見るもの」という既成概念が崩される作品になるのは間違いないのでは……。
実は今、出版業界にも歴史ブームは静かに、しかし着実に広がっている。昔から新しい大河ドラマの放映が間近になると関連書籍が次々に出版されるが、龍馬関連の書籍のブームは凄まじく、何と100冊にも及ぶ書籍・雑誌が出ているらしい。日本人が急に歴史好きになったのか、長びく不況の中で英雄を待望する気分が盛り上がっているのかは不明だが、いずれにしても歴史を知るといろんなことを学ぶことができるのは事実だ。戦国とか幕末などの困難な時代の中で、その時代を生きた人びとが必死で自分の生きる道を開拓し、未来を築いてきたことは事実だろう。しかし、大河ドラマには思わぬ落とし穴がある。テレビは映像作品を放映するメディアであるため、いわゆる「絵になる」構図がどうしても好まれる傾向がある。これは無理からぬことで、例えば座敷にじっと座っている吉田松陰が長談義しているだけの連続ドラマを延々と一年間やるとしたら、番組制作者も視聴者もちょっときついのではないか。やはり野戦攻城の功を求める武人たちが剣戟の響きを起こす、人馬乱れる合戦シーンが欲しいと演出家でなくとも思うところだろう。よって吉田松陰を描けば続いて高杉晋作を描き、奇兵隊を描き、さらには大村益次郎の活躍までもドラマの中に織り込みたくなるのは人情として理解できる。
しかし、言うまでもないことだが、人間そうそう戦争ばかりしている訳ではない。確かに人の世にいくさは絶えないが、戦闘以外はまったく何もしない時代というものも存在しない。江戸時代の人びとは、各藩の事情や特色を活かしながら生産活動や商業活動を広げ、封建時代の中にあっても少しずつ資本主義の芽を育んでいたのである。「昔の人びとは戦争・飢饉等の緊急事態以外のときはどんな生活を営み、時代を変えていったのか?」。そんな疑問に平易に答え各藩の歴史を網羅的に解説しているのが小社の『シリーズ 藩物語』である。今から約140年前まで日本は、おおよそ300もの「藩」という独立公国を内包する、一種の連邦国であったのだ。いわば、かつての日本は現在のEUのような地域であったのである。
今、日本は大きな転換期を迎えている。これからの10年、いや5年を確実に見渡せる術を持つ者は存在しない。そんな不確定な時代にこそ歴史書は「効く」のである。人間はそれぞれの時代の中で絶えず試練を受けてきた。先人たちの苦労や工夫を知ることは現代の必須教養である。不安定で厳しい時代の中では、歴史書は最良の実用書であり、ビジネス書であり、哲学書である。小社の「シリーズ 藩物語」も刊行開始から5年の節目を過ぎ、いよいよ本格的に全国各地域の藩を取り上げていく。
郷土史を学ぶという視点に加え、困難を生き抜く知恵を知るためにも是非、『シリーズ 藩物語』にご注目願いたい。