編集部だより
2010年02月09日
チカップ・カムイ(鳥の神様)へ
チカップ美恵子様のご訃報に接し、ここに深く哀悼の意を表します。
つい昨月下旬に弊社で刊行させていただいた『カムイの言霊』が、最後のご著書となってしまいました。制作開始時にはすでに闘病生活を送られていたチカップさんとは、お電話の一本、お手紙の一通を交わすこともかないませんでした。しかし力強く丁寧に手書きされたお原稿は、まるでお声が聞こえてくるかのように雄弁にチカップさんの思いを語っていました。何度も見返しながら、チカップさんと対話を重ねながら制作した気持ちです。
チカップさんが病をおしても伝えようとなさった平和のメッセージや、豊かな文化の伝承への熱い思いを広め、後世へ残すことこそが大切だということを、教えていただいたと存じます。
完成後、病床でご本をご覧下さり「きれいな本ね」と喜んでいただいたと聞き、せめてものご恩返しができたと思います。
『カムイの言霊』が完成し、北海道立文学館で開催された同名の作品展が大盛況に終わり、お仕事を終えカムイ・モシリに旅立ってしまいました……。最期まで想いを伝えて下さったチカップさんの優しさを思うと、悲しみが込み上げてまいります。
どうか安らかにお休みください。深い感謝とともに、心よりお悔やみ申し上げます。
上記は2月5日に亡くなったチカップ美恵子さんにあてた追悼文です。つい先月、亡くなるほんの2週間ほど前に、新刊『カムイの言霊――物語が織り成すアイヌ文様』を上梓したばかりでした。
『カムイの言霊』は、アイヌ語の地名からその土地の特徴や民族の生活を読み解き、自然界と共生した先人たちの知恵を紹介しています。ヒグマやカワウソなど動物が語るト゜イタク(昔話)や、民族復権に尽力した伯父・山本多助エカシや母・伊賀ふでさんの意訳つきの詩やウポポ(歌舞)も多数掲載した、アイヌの世界観を豊かに綴った一冊です。チカップさん作の色彩豊かなアイヌ文様刺繍ほか、アイヌ・モシリの自然を描いたイラストも多数掲載しています。
チカップさんは、白血病と闘い入院生活を送りながらも、民族の豊かな思想や文化を伝承しようと力を尽くしてくださいました。民族の紹介のみに留まらず、人間・自然・地球という「生命のめぐりの環」に生きる私たちへ、平和を尊ぶメッセージを語り継いでいます。
チカップさん、完成したご本を見ながら直接お話しをうかがうことができず、本当に残念でなりません。チカップさんが命を込めて執筆してくださったこのお仕事は、私にとって掛け替えのない経験となりました。チカップさんのご遺志を一人でも多くの方に伝えられるよう、このご本を大切にしていきます。
ありがとうございました。どうか安らかにお休みください。()