編集部だより
2010年11月02日
「東京ブギウギ」
この名前だけで、頭のなかにメロディが流れてきませんか? そして、戦後復興を目指し活気あふれる東京の風景が浮かんでくるのではないでしょうか。
同じ東京の闇市の光景を、「パリは燃えているか」(加古隆作曲NHK「映像の世紀」のテーマ。名曲です)をBGMにするのと東京ブギウギをBGMにするのとでは、まったく見え方が変わってきます。きっと、当時口ずさむ人々の精神状態にも大きな影響を及ぼしていたことでしょう。「明るく元気で活気あふれる」という戦後のポジティブな一面には、彼女の歌が大きく影響しているように思えます。
さて、そんな占領下の日本を照らしたお天道様のような歌姫・笠置シヅ子は、八の字眉毛に大きな口、コテコテの大阪弁が特徴です。カネヨンのCMのオバチャンとして記憶している方もいらっしゃるのではないでしょうか。あっけらかんとした笑顔でチャーミングなキャラクターだけれど、実は不遇を乗り越え波乱万丈の人生をパワフルに生きた女性です。
◆私生児として生まれ養父母に育てられた少女時代。宝塚を“チビ”が理由で不合格になるも、「道頓堀で宝塚みたいなのやってまっせ」という近所のオバハンの言葉を聞き、その足で道頓堀の松竹座へ行き猛アピール。音楽部長を根負けさせる情熱を見せ入団。歌と踊りの世界へ。
◆戦時中は激しい踊りとスィングが “敵性”と糾弾され活躍の場を奪われるも、これを機に独立し、自分の楽団をつくる。
◆戦中燃え上がった恋。男の家族に反対されるなか身ごもるが、病弱な婚約者は子どもの顔を見ることなく他界してしまう。愛する彼の忘れ形見を守るため、働くシングルマザーとして奮闘。
こうして数々の苦難を打開し、敗戦後、押し殺していたパワーをさく裂させ「東京ブギウギ」で“女王”の座を射止めます。
どん底から頂点まで大波に翻弄される小舟に乗りつつ、持ち前の粘り強さと一本気な性格で“自分”を貫き通した笠置シヅ子。彼女の初の評伝『ブギの女王・笠置シヅ子――心ズキズキワクワクああしんど』(砂古口早苗著)が、没後四半世紀たった今年ついに刊行されました。本書では、これまで語られなかった服部良一との師弟関係の真実、美空ひばり母子との確執の真相など、ブギの女王の謎に迫っています。占領下の日本に元気をふりまいたその姿は、現代の笑顔がしぼんだ不景気ですらパッと明るく照らしてくれます。
頭のなかに流れるあの曲。どうぞ鼻歌を歌いながら、笠置シヅ子の生涯をたどってみてください。心がズキズキして、ワクワクして、「ヨッシャ、がんばっぞ!」という気持ちになります。がんばってしんどくなったときには、カバーを眺めてみてください。「元気、だしなはれ!」そんな声が聞こえるド迫力の笑顔があります。(栗)