編集部だより
2011年01月24日
『ロシア語の余白』の余白
昨年12月に小社より出版しました黒田龍之助氏著『ロシア語の余白』がご好評のうちに販売が続いております。著者の黒田先生はNHKテレビ「ロシア語会話」、NHKラジオ「まいにちロシア語」の講師も務めた方で、スラブ語学・言語学専攻の研究者です。小社からは『羊皮紙に眠る文字たち──スラヴ言語文化入門』『外国語の水曜日──学習法としての言語学入門』『その他の外国語──役に立たない語学の話』に続いて、四冊目の書き下ろし書籍です。
黒田先生の書籍は講談社・白水社・角川書店・三修社からも出ておりますが、いずれも大人気で、幅広い年齢層の方々に愛読されております。
外国語を勉強する人は年々増えているそうで、語学学習熱は冷める気配はないということを耳にしたことがあります。しかし、その語学の中味はやはり英語が圧倒的多数で、その他にも中国語を学習する人も確実に増えているそうです。それは勿論大変素晴らしいことなのですが、「英・中二極集中」だけで始終してしまうのは、ちょっともったいないかも知れません。学習効果を高めるため、わき目もふらない一言語集中学習が当たり前のように捉えられ、英語・中国語以外の外国語を学ぶ機会がかえって減っているは、考えてみれば少し残念なことです。「自分だけのお気に入りの外国語」を持つことができれば、日々の生活は確実に面白くなります。日本語環境の日常から一歩外へ踏み出して、世界のさまざまな文化の担い手と深く語り合ったり、英語にも日本語にも翻訳されていない自分だけのとっておきの一冊に出会ったり、日本ではほとんど誰も知らない超マイナーな映画を楽しんだりすることもありますが、新しい外国語との出会いは何よりも母語である日本語への印象を新鮮にしてくれるからです。今まで知らなかった外国語と出合うことで、はじめて自分の母語の面白さや興味深さを発見する人も多いようです。ちょっとだけ異邦人の視線に立って、知っているはずの日本語と再会すると、日本語のほうもよそ行きの顔で、普段はしてこない「挨拶」を投げかけてきます。母語の有り難さや難しさを知ることは、今日的な教養としてとても重要だと思います。
黒田先生の本には外国語の知識とともに、日本語の魅力もたくさん詰まっています。平明で瑞々しい文章が描く言語の鮮やかな躍動は、人間の知性のしなやかさや柔軟性を教えてくれます。『ロシア語の余白』のテーマはロシア語でありますが、この本の日本語文章も名文です。ロシア語と日本語がご自身の中で交流する体験を是非楽しんでください。