編集部だより
2011年06月17日
震災と障害者
東日本大震災から3カ月がたちました。未だに8千名以上の方が行方不明のまま、避難所暮らしの方が9万人もおられます。その上、原発事故による現在進行形の放射能汚染で、原発周辺の避難区域の住人は自宅に戻ることもかなわず、海や大地に根ざした生業を奪われ、職を失い、よって立つ生活地盤・生活史を根こそぎもぎ取られた悲しみと苦しみのなかに置かれ続けています。このような不条理を前に、本を作る側としてどのように向き合ったらいいのか、考え込んでしまいます。
障害問題の総合誌『季刊福祉労働』は、被災障害者の救援・復興支援活動に関わり、131号(6月25日刊)でそのドキュメントをサブ特集しています。
今年1月の編集会議で6月号の特集テーマについて議論していた頃は、「無縁社会」と称されるように、職場・地域社会・家族等との繋がりが絶たれ、生きづらさや困難を抱えながらどこにも誰にも相談することができない人が増え、相談支援事業が拡大している。従来は高齢・母子・障害・貧困(いわゆる「社会的弱者」)を対象としてきた相談支援が、若者支援、子育て支援、発達相談、ハローワークでの生活相談(ワンストップ・サービス)のようにありとあらゆる層に広がっている。「無縁社会」と称される社会をどう捉えるか、その中で行われている相談支援は、本当に当事者が自ら問題解決していくことに?がる支援になっているのか、という問題意識から「拡大する相談・支援事業の実相」の特集となりました。
それから2カ月、執筆者候補に原稿依頼をし始めた矢先の3月11日、かつて経験したことのない大地震・津波の大災害と原発事故という人災に見舞われた日本社会の雰囲気は、正に一変しました。
家族や友人・知人の安否を気遣い、膨れ上がる死者・行方不明者の数に恐れおののきながら見知らぬ人のために祈り、被災地にボランティアとしてかけつけ、支援物資やカンパを送り、この苦難を被災地だけのものにしてはいけないと自分に何ができるかを考え続けました。今や「無縁社会」「孤属」に代わって「絆」「つながり」という言葉が社会を覆っています。
被災地では誰もが、行政自体が長期的に要支援の状態になり、被災者、そして救援に携わる人たちの惨事ストレスに対するこころのケア、支援は、今や日本社会あげての課題になりました。
この間新聞・テレビ・ラジオ・インターネット、あらゆるメディアが被災地の日々刻々と移り変わる情報を発信し続けましたが、その膨大な量の割に、被災した障害者の情報はごくわずかでした。一般に障害者が人口の1割と言われることからすれば、ほとんどなかったとさえ言えます。
ヘルパーが被災して介助を受けられない、人工呼吸器の電源確保のため蓄電器、発電機が必要、病院に行けず医療的ケアの必要な人の物資が枯渇している等々…、一般の被災者とは違い、水・食料・ガソリン以外に生存のために必須な物が障害者固有のニーズとしてあります。震災直後に被災地から発せられたSOSを受けて、地域で自立生活を切り開いてきた障害者たちの全国的ネットワークは即座に物資を集め、その翌日には現地に駆け付けました。救援隊が被災地の情報を持ち帰り、阪神淡路大震災の経験から障害者救援本部を立ち上げようと準備していた東京・大阪での動きとつながりました。
自立生活の拠点である自立生活センター(CIL)の障害者たちは、日常からバリアだらけの地域社会で、介助や必要な支援・サービスを自ら提供し、利用してきたからこそ、被災して何が必要か即座に発信でき、それに応えるネットワークができていたのです。
被災地のCILは全国の仲間の応援を受け、自ら被災しながら、送られてきた支援物資を地域に分配するだけでなく、必要な情報・支援を届け、現地でのニーズを掘り起こしていく被災地障害者支援センターへと変身していきました。
しかし、介助や必要なサービスを使って地域で自立して暮らす障害者は東北地方ではまだまだ少なく、拠点となるCILも大海の孤島のような存在です。このような大災害が起きて初めて、高齢の親やきょうだいが50代、60代の重度障害者を何十年も介護してきたが、自宅が被災し、避難所にも入れずに介護放棄寸前のところに支援センターのスタッフが介助サービスにつなげたというように、隠れたニーズ(障害者の暮らしぶり)が表面化してきました。
地域で暮らすためのサービスが少なく、施設収容・家族介護中心だったこの地域では、施設から施設へ、在宅から施設へと緊急避難させられ、災害報道から漏れてしまった多くの障害者がいます。
「放射能をなかったことにして生活するか、どうやって放射能被害から逃れるかの両極を私たちは生きています。どこかに避難すればふるさとを思い、ふるさとに居ればなぜ避難して自分の命を大切にしないのかと責める自分との葛藤の中に居るのです。」
福島県内のCILの方から、JIL(全国自立生活センター協議会)のMLへの発信です。復興どころか復旧の道すら見えない放射能被害の不条理の中で立ちずさみ、揺れながら、それでも現実に立ち向かわざるを得ない当事者たちの想いに寄り添い、長期にわたって共に活動・支援していく人が求められています。そしてそれに応える全国の仲間がいます。
地域社会からも避難所からも隠され、震災報道から漏れてしまった障害者が主体的に暮らせる地域につくり直すこと、未曽有の国難に挙国一致で対処せよと違いや異質なものを排除するのでなく、誰もが等しく違いを大切にされるインクルーシブな社会へ向けて復興の歩みをつけること。
そうした障害当事者とそれにつながり支援する人たちの活動を読者に伝え、そこから見えてくる社会の課題を『季刊福祉労働』誌上で討論できればと考えています。(猫)