編集部だより
2012年02月06日
あなたは「ヘンゼルとグレーテル」のお話、わかりますか?
「お菓子の家にいるのはいい魔女だっけ?」
「青い鳥を探してるんだよね?」
「パンくずをどうしたんだっけ?」
これらはみな「『ヘンゼルとグレーテル』のお話がわかりますか?」という質問を投げた際に返ってきた答えです。日本では、どうやらグリム童話に触れる機会が意外と少ないのかもしれません。明らかにメーテルリンクの「青い鳥」とごちゃ混ぜになっている方がいらっしゃいます。
グリム童話は「これぞ正しい本当のお話」というのが曖昧です。オリジナルは第7版が決定版ということになっていますが、最初に書いたものが本当だと主張する方もいるでしょう。こうした詳細部分にはおおらかな気持ちをもっていただくとして、おおよそだいたいこんな話、というすじをご紹介しましょう。
なんで「ヘンゼルとグレーテル」のすじなんてわざわざ「編集部便り」に掲載するのかって? それはこんな素敵な本が出来上がったからです。
『本当にあった? グリム童話「お菓子の家」発掘〜メルヒェン考古学「ヘンゼルとグレーテルの真相」〜』(H・トラクスラー著・矢羽々崇+たかおまゆみ訳/2012.1小社刊)。長いタイトルですね。ウラ事情をあかすと、このタイトルで新聞広告を作ったり、注文の伝票を書いたりするのはとっても手間がかかります。でもそれがわかっていても、長くなってしまいました。本屋さんを歩く皆さんに、広告を目にした皆さんに、この素敵な本にどうしても興味をもってほしい、と切に思ったからです。だって「お菓子の家」が発掘されたのです! 「それがなにさ」と思ったクールなあなたは、きっとグリム童話なんてバカバカしくって読まないよ、という子どもだったのではないでしょうか? ではこれはどうでしょう。「トロイの木馬」と聞けばピンとくるのではありませんか? そうです。伝説が史実だと証明されたあの偉大な発見です。同じことが1962年にドイツでおこったのです!
実はこの本は1963年にドイツで刊行されたものの翻訳です。でもいくら半世紀前の外国の出来事とはいえ、「お菓子の家」が発掘されたなんて大事件を、日本では誰も知らないなんて不自然でしょうか? いえいえ、そんなことはありません。権力を以てすれば、隠蔽など簡単なのです。日本の現状をみれば、賢明な皆さんにはわかっていただけることでしょう。グリム童話というのはアンデルセンと肩を並べて大昔からメルヒェン界で幅をきかせてきた権威です。この発掘は「不都合な真実」として闇に葬られて、日本どころか、世界中に知られずに今日まできてしまいました。今ではドイツでもホロコーストと並んで「公然の秘密」となっています。ホロコーストが公然の秘密であったかどうかについては、『ホロコーストを知らなかったという嘘』(バヨール他著・中村他訳/小社刊)という素晴らしい本が出ています。トップページから検索してみましょう。
とにかく、しかしこの大発見を隠し続けることはできません。今まで日本一有名な大学のエライ教授も為し得なかったこの禁断の書の翻訳を、ついに矢羽々崇先生とたかおまゆみ先生という、勇気あるお2人が完成させたのです!
これはもう、大勢の方に知っていただかなくてはなりません。今もなお「悪い魔女」を信じている子どもたちに、真実を知らせなくてはなりません。可愛らしいヘンゼルとグレーテル兄妹の秘密から、目をそむけてはならないのです。
本屋さんや図書館に行って、この素敵な本をさがしてみてください。きっとあなたは驚くことでしょう! 今までの人生観を揺るがす大発見を、あなたはきっと誰かに教えたくなるでしょう。でも、どんなに一生懸命話しても、信じてもらえないかもしれません。「まさか、グリム童話が本当にあったわけないじゃん」。そうしたら、ぜひこの本のことを教えてあげてください。優しいあなたは、もう1冊買って、プレゼントしてあげましょう。このHPからも注文ができますよ。
さて、そんなワクワクする本書も、そもそも「ヘンゼルとグレーテル」をうろ覚えのまま読むのではうまくありません。グリム兄弟著「ヘンゼルとグレーテル」は押さえておかなくてはならない重要な文献です。わからないまま読むと、面白さ半減どころか、もしかしたら大発見に気づかずに読み進めてしまうかもしれません。それでは台無しです。
すでに本書をお持ちの皆さんは、p123をご覧ください。きちんとした翻訳文が読めます。だから下に書かれているのは読まなくて結構。
まだ本に出会っていないあなたに、このグリム童話(KHM15)のお話をご紹介しましょう。ただ注意! 以下に掲載されている「ヘンゼルとグレーテル」は、まったくもって私の記憶たよりのものです。ちゃんと先生の翻訳文を書き写せばよかった? いえいえ、記憶でよいのです。おやすみなさいのときに、お母さんやお父さんはたまにお話しをそらんじてくれましたよね? おとぎ話は、そのときの気分次第でどんどん変わっていくものです。(栗)
■ヘンゼルとグレーテル■
ある森のふもとに木こりが、妻、そしてヘンゼルとグレーテルという子どもと貧困にあえぎつつ暮らしています。「妻」は子どもにとって実母だったり継母だったりと諸説ありますが、そんなことを気にしていては概要はつかめません。とにかくここでは「母」としましょう。
日本むかし話でも、一家の米びつといえば底をついているものと相場は決まっています。しかしてここドイツでも、この一家の食べ物はめいめい一口ずつのパンだけ。そこでお母さんはひらめきます。そうだ、子どもを捨てよう!
しぶるお父さんにヤイノヤイノとまくしたて、お母さんは主張を押し通します。たいていこういうのは声の大きな者が勝つのです。思いたったが吉日、翌日みんなで森へ行き、子どもだけ置き去りにすることになりました。
このやり取りを、兄ヘンゼルと妹グレーテルは扉のかげから聞いてしまいます。この窮地を脱する一計を案じたヘンゼルは、夜中に起きだしこっそり庭に出て、光る小石をポケットいっぱいに集めました。
翌朝、2人はお母さんにたたき起こされます。家族みんなで森にたきぎ採りに行くよ、と。道々、ヘンゼルは昨晩集めた小石をポケットからこっそり取り出して撒きます。きっと夜になって月が出れば、小石が光って家に帰れるはずです。
森に着くと、両親は子どもたちにむかって、仕事が終わったら迎えにくるから、お昼寝をして待っていなさいと言い残して行ってしまいました。兄妹たちは、お父さんが斧で木を切るコーンコーンという音を遠くに聞き、まだ大丈夫だと安心しながらウトウト寝てしまいます。しかしこの音は、お父さんが枯れ木にぶら下げた枝が、風を受けて木の幹にあたる音でした。2人が目を覚ましたときには森は真っ暗。
こうして母の計画どおり兄妹は森に置き去りにされましたが、ヘンゼルが図ったとおり、夜になって月の光を受けてキラキラ光る小石をたどって無事に帰宅します。お父さんは自分がしたことを棚に上げて大喜び。お母さんは歯ぎしり。
こうして一段落したのですが、お父さんの甲斐性なしは相変わらず。再び食べ物がなくなります。お母さんは、今度こそ! と、子どもを捨てようとお父さんに迫ります。父は、またもや母の言いなり。主導権をいったん譲った以上仕方ありません。
今度も兄妹はこのやり取りを聞いています。しかしヘンゼルが光る小石を集めに外に出ようとすると、扉にカンヌキがかけられていて出られません。絶体絶命のピンチ!
次の日ヘンゼルは考えたあげく、昼食用の貴重なパンをちぎって道々に撒きます。きっと夜になって月が出れば、パンくずが光って家に帰れる……はずがありません。もちろんあわれなヘンゼルのパンくずは、森の小鳥たちの餌食となって消え、兄妹は母の願うとおり森の中で迷子になってしまいました。
森を2晩もさまよってフラフラの兄妹の前に、美味しそうな「お菓子の家」が突如現れます。空腹に勝てず、家を壊してむさぼり食っていると、家からおばあさんが出てきて中にまねいてくれました。お菓子もミルクもどっさり。子どもたちは大喜び! ダンケシェーン! 兄妹は家にあがりこんでお腹いっぱい食べ、綺麗なシーツがかかったベッドで眠ってしまいます。
もちろんこれは罠です。魔女はヘンゼルを家畜小屋へ閉じ込めました。太らせて、おいしく食べてしまおうというのです。妹グレーテルは兄を太らせるためにご馳走をつくるように言われます。「性別役割分業は暴力である」――という観点はこの時代にはありませんから、グレーテルは嘆きつつも炊事をします。ちなみにこの言葉は本のタイトルです(福岡女性学研究会編/小社刊)。とにかくこうして兄妹は魔女に捕えられてしまいました。
グレーテルはせっせと料理を作って兄に食べさせ、ヘンゼルはどんどんまるまる太っていきました。魔女はヘンゼルに、家畜小屋の鉄格子から指を出すように言います。魔女は目が悪く、夜のスズメくらいにしか見えませんから、指の太さでどれだけ肥えたか調べるのです。狡猾なヘンゼルは自分がしゃぶった鶏の骨を差し出し、魔女を欺きます。
いつまでも太らないヘンゼルに業を煮やし、待つのをやめた魔女は、かまどに火をおこすようグレーテルに言いつけました。そして、ついでに妹も丸焼きにして食っちまおうと考えて、かまどに首をつっこんで火の具合を見るよう言いつけます。
我らがグレーテルは、ハッと魔女の企みに気づき、とっさにわからないふりをしました。お腹がすいてイライラとした魔女は「こうすりゃいいんだよ!」とかまどに頭をつっこみます。そのチャンスを逃すグレーテルではありません。すかさず背後から襲いかかり、渾身の力を込めて魔女の足を持ち上げ、「おうりゃ!」と掛け声も高らかにかまどへ投げ込み、扉を閉めてカンヌキをかけて作戦完遂。魔女は断末魔の叫びをあげながら、火に焼かれて死んでしまいました。メルヒェンの悪役の末路は、かくも無残です!
こうして兄妹は解放されました。まるまる太ったヘンゼルを家畜小屋から救い出し、ついでに2人は魔女の家にあったキラキラ光る宝石やピカピカの真珠を「お父さんへおみやげ」として持ち去ります。勝者の当然の権利です。
魔女の家を出てしばらく行くと、大きな川にぶつかりました。見渡すかぎり橋も、舟もありません。折しもそこへ一羽のカモが通りかかり、親切に2人を向こう岸に渡してくれました。メルヒェンにはたまにこうした突拍子もない挿話があります。こうして川を渡り、2人はどんどん歩きます。ついに、だんだん知っている景色になってきました。遠くに我が家が見えます!
2人は走って家にとびこみました! すっかりやせ細ったお父さんが、泣きながらふたりの可愛い子どもを抱きしめます。あのいじわるなお母さんは死んでいました。こういう不穏分子がいつのまにか消し去られているのがメルヒェンのいいところです。「実は魔女がお母さん」とか諸説あるみたいですが、まあとにかく、お母さんはいなくなります。
こうして、優しい甲斐性なしのお父さんと、まるまる太ったヘンゼルと、魔女を殺したグレーテルは、持ち帰った金銀財宝によって、いじわるなお母さんが消えた我が家で、末長く豊かに楽しく暮らしましたとさ。メデタシメデタシ。