現代書館

そして、同時期に出された『ベーシックインカムとジェンダー――生きづらさからの解放に向けて』(堅田香緒里・白崎朝子・野村史子・屋嘉比ふみ子編著)では、非婚のシングルマザー、主婦、働く単身女性、女子学生、セクシュアルマイノリティ、引きこもり等、性別役割分業と家父長制がはびこる日本社会で、家族単位の社会保障制度や戸籍制度から外れ、生きづらさと貧困を抱える当事者たちが、ベーシックインカムという無差別・個人単位の所得保障政策の視点から問題提起をしています。

性別役割分業は、少子化にも影響しています。女性が働き続けられる施策を整えたEU圏では、(EU雇用差別禁止法や手厚い子育て支援策)出生率が上がっているというのに、日本では1989年の合計特殊出生率1.57ショック以来、度重なる「エンゼルプラン」にもかかわらず、2005年には1.26まで下がりました。今は少し回復しましたが、急激な少子高齢化にはなかなか歯止めがかかりません。予算に余裕のあったバブル期に手を打たなかったつけが、一世代分の遅れにつながっているのです。
個人の子産み・子育てが国策になるとき、どうしても戦前の「産めよ増やせよ」、戦後の優生政策が思い出され、「国力が低下する」などという話には警戒したくなります。しかし、ここまで社会のあり方が変わってきているのに、性別役割分業をそのままにした子育て支援政策のミスマッチは、子どもを育てながら働きたい個々人にとっては大いなる不幸です。 
例えば、専業主婦の存在を前提とした幼稚園と親が働いていて「保育に欠ける」とされた子どもが預けられる保育園とに就学前の子どもを分ける今の幼保二元システムは、膨大な保育園待機児童がいる一方で、空きが目立つ地方の幼稚園では預かり保育を無認可で行ったりしているわけで、今の社会状況に対応できていないだけでなく、子どもを預けて働きたいという潜在的な女性の労働力を家庭に押し込めているといえます。

子育てか仕事か二者択一を迫るのではなく、ワーク・ライフ・バランスのとれた、子育てと仕事の両立ができる新しい保育制度と子育て支援策、すべての子どもにとって健全な育成環境を整備・保障することを謳った「子ども・子育て支援システム」が1月末にとりまとめられました。
『季刊福祉労働』134号では、「子ども・子育て新システムで障害児の保育・療育はどうなる」という特集を組み、就学前の障害児にとって新システムがどのように機能するのかを、検討委員会の委員、保育所、療育施設、親、子育て支援のNPO、自治体の立場から検証しています。障害のある子どもから見ると、そもそも「すべての子ども」の中に障害児が入っているのかという疑問に始まり、いろいろ懸念があるのは確かで、本特集ではいろいろな課題が上がっています。

それでも今の保育・子育てシステムがこの間の社会・経済状況の変化に対応できていないのは確かで、子育ての孤立から虐待や女性の産後うつ・育児ノイローゼの問題も生じ、一方、男性もリストラによる正規労働者の減少によって、超過負担による過労死や自殺などが増加しています。男性を利してえるように見えながら、本当は女性も男性も不幸にし、働き盛りの層を疲弊させる性別役割分業とそれを裏支えするシステムは、少子化だけでなく様々な災いをもたらしているのです。
そうは言っても、性別役割分業は、家事・育児・介護(再生産労働)と仕事(生産労働)という個々の生活に根深く入り込んでおり、かつ福祉・社会保障制度と税制、労働政策、戸籍や民法など広く絡まっていてとても複雑です。雇用均等法や育児休業法、男女共同参画推進法などバラバラに打ち出すのではなく、人の一生のライフサイクルにそった社会政策全体の組み直しと財源論議を一緒に、一気に進める、つまりもういい加減パラダイム転換せよと迫られているのではないでしょうか。
(「ワーキングマザー」にならず、親の介護もなしに見送り、一生を猫の使用人で終わりそうなヨレヨレ・ワーキングウーマン)

*トップページでもお知らせしていますとおり、『ベーシックインカムとジェンダー』の出版記念シンポジウムが4月15日午後1時30分〜 千代田区飯田橋の東京しごとセンター 地下講堂で開催されます。著者からの発題を受けて、参加者全員による車座ミーティングを予定しています。参加自由ですので、ふるってご参加ください。

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