編集部だより
2012年10月17日
民意のゆくえ
先日、テレビのニュースを見ていると、静岡県・中部電力浜岡原発の再稼働の是非を問う住民投票条例案が“否決”されたと報道されていました。浜岡原発は現在、運転停止中であり、その住民投票条例案は16万5127人の署名を集めて提出されていたようです。原案提出者である市民団体の方の落胆は、かなり大きかったことでしょう。その否決となった理由として、ある議員が話したことが頭に残りました。それは、“国の原子力行政を住民投票で左右するのは妥当ではない”というような言葉でした。
数の問題ではありませんが、その議員にとっては(おそらく反対票を入れた多数の議員にとっても)、署名をした16万5127人の県民の意見は、国策に劣るということなのです。国のためには犠牲になる者も必要だという考え方にも聞こえ、“お国のために死ぬ”ことを美徳とした過去の戦時中となんら変わっていないという空しさを覚えます。
地方自治法第七十四条で、「普通地方公共団体の議会の議員及び長の選挙権を有する者〔……〕は、政令の定めるところにより、その総数の50分の1以上の者の連署をもつて、その代表者から、普通地方公共団体の長に対し、条例〔……〕の制定又は改廃の請求をすることができる」と、“直接請求”について記されています。
県内有権者数の50分の1以上の署名が集まれば、地方自治体に条例の制定・改廃を直接請求できるということです。しかし、今回のように、その条例制定には議会の同意が必要となります。
県民が納得できる明確な理由があるのなら、議会の決定に従わなくてはいけないと思いますが、この浜岡原発の採決に関しては、「原案で提示された投票有資格者が18歳以上だと名簿作成に時間とコストがかかる」などの理由が挙がっているようで、しかもその問題となっていた年齢や期日の修正案を一部の議員が提出したにもかかわらず、それも否決されています。
民意はどうすれば伝わるのか。科学ジャーナリストの天笠啓祐氏が書いた『この国のミライ図を描こう』(小社刊)では、福島第一原発事故を起点として、環境や食料、エネルギー、労働など、日本社会の現状と問題について指摘し、いかにして自分たちで新しい社会づくりを行うか、経済優先ではない「もう一つの道」へと歩みを進めていけるかといったことが分かりやすく書かれています。
そのなかで、他国の国民投票についても触れられています。日本で国民投票が実施されるのは憲法改正のときのみですが、スウェーデン・オーストリア・イタリア・スイスでは原発についての国民投票を実施しています。そして、その結果はどうだったのか……。
自分たちの国がどうあるべきか、まずは現状を知ることで、新たな「もう一つの道」の方向が自ずと見えてくるはずです。