この度、
『黙つて働き 笑つて納税――戦時国策スローガン 傑作100選』(定価1700円+税)のという書籍を出版致しました。本書は、昭和戦時下につくられた国策標語を収録し、解説・コメントとイラストを加えた内容です。
戦争中、日本では戦意高揚のための数多くのスローガンがつくられました。「欲しがりません 勝までは」「撃ちてし止まむ」などです。当時の日本では、職場・学校・街頭・商店街・はては家庭内まで生活のいたる所にこんな標語が貼り出され、日々、日本人を叱り続けていました。「贅沢は敵だ」「足らぬ足らぬは工夫が足らぬ」など有名なものもありますが、実はさらにとんでもない標語も流布したのです。
「任務は重く 命は軽く」「金は政府へ 身は大君へ」「国のためなら 愛児も金も」「日の丸持つ手に 金持つな」など、思わず絶句してしまうものや、「りつぱな戦死とゑがほの老母」「空へ この子も捧げよう」「子も馬も 捧げて次は 鉄と銅」など聞いただけで凍りついてしまうようなスローガンもありました。酒を飲むことを止めさせる「酒呑みは 瑞穂の国の寄生虫」とか、ぎりぎりまで国民の食事量を減らさせようとする「節米は 毎日出来る 御奉公」などの標語もあり、今でいうところの「ムチャぶり」のオンパレードです。おしゃれや化粧を糾弾する標語(「飾る体に 汚れる心」)もあれば、プライバシーや家族団らんなど一切無視する標語(家庭は小さな翼賛会)、さらには、団結一致を求める一方で相互監視や相互不信を煽る標語(「護る軍機は 妻子も他人」「買溜に 行くな行かすな 隣組」)もありました。
禁酒禁煙節食を強要され空腹と勤労動員でフラフラの国民に、何と米英本土を占領せよと気宇壮大な無理難題まで吹っかけます(「米英を 消して明るい 世界地図」「日の丸で 埋めよ倫敦(ロンドン) 紐育(ニューヨーク)」)。野望というより妄想に近い標語です。当時の日本はもしかしたら「中二病」に罹っていたのかも知れません。
揚げ句のはてには「人並と 思ふ心が 奢りの心」「権利は捨てても 義務は捨てるな」と叱られる始末です。当時の国民の苦労がしみじみと偲ばれます。こんなトホホ感山盛りの、壮絶コピー集が本書です。
本書のタイトル『黙つて働き 笑つて納税』もそんな標語の一つです。
それにしてもコピーとか、ワンフレーズ政治というのは恐ろしいものです。今も「ニッポンを取り戻す!」と連呼しているオジサンがおられますが、国民は取り上げられる一方です。ダイジョウブでしょうか?