編集部だより
2014年03月18日
チョムスキー来日の意味
この春、ノーム・チョムスキーが来日した。
言語学者として、そして精力的に文明批評を続ける社会哲学者としても著名なチョムスキー氏だが、その来日は大きくマスコミで取り扱われることはなかった。
彼の活躍や言論活動はいずれも有名で、著作も100冊を超える。言語学分野の著作も含めると、引用される頻度は長らく世界トップクラスを保っている重要人物である。世界的知識人である彼の来日ならば、もっと大きな注目を浴び、マスコミなどでも取り上げてしかるべき人物だが、そうではなかった。
チョムスキー氏は反体制派のアメリカ人としても有名で、若いころからベトナム戦争反対など、一貫して反体制を貫き、アフガン侵攻やイラク戦争についても米政府のウソや不正について厳しく糾弾している。ユダヤ人であるが、イスラエルにも批判的な態度を保持し、80歳を過ぎた今でも北米自由貿易協定(NAFTA)や、アジアで現在進められているTPP等について鋭い批判を展開している。
世界規模で進む新自由主義の拡大が中流階級の崩壊をもたらし、その中で金融の肥大化、そして産業の空洞化は際限もなく進んでいく、働く人びとに失望感以上の絶望をもたらしその貧困は世代を超えて継承されてしまう……。彼は米露中などの覇権国家を批判するだけでなく今の資本主義下で本当に人類が生き延びることができるのかを問い続けている。 今回の来日時には、東日本大震災時の福島第一原発事故の放射能漏れについても言及し、ヒロシマ・ナガサキの経験のある日本でどうして放射能の危険に直面する被災者に寄り添わないのかと憤り、政府は市民にウソをつき自分を守ろうとすると厳しく批判している。
チョムスキー氏の言葉はシンプルであるが妥協がない。
彼の知性は止むことなく現代社会の病理に抵抗を続けている。
約半世紀ぶりの来日を果たした知の巨人は、昔と変わらないどころか、より先鋭的になっていた。こんな時代だからこそ、諦めることを拒み続けるチョムスキー氏の精神に学びたい。