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web掲示板談話 斎藤美奈子・森達也 第九十九回 |
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件名:政治と世代とジェンダーの問題 投稿者:斎藤美奈子
森 達也さま
あけましておめでとうございました。もう月末に近いけど。ごめんなさい菊地さん! 前回けっこうこき下ろしたのに、「いろいろ楽しみながら読みました」といっていただいて恐縮です。いつもながら貴君の懐の深さ、痛み入ります。
<同じ手法で返したいけれど、美奈子さんはツイッターもFBも、ましてやインスタグラムもしていないよね。
そうなんです。なるべく言質をとられないようにしながら、ひっそりと暮らしてます(笑)。それでも言質はとられるけどね。この往復通信もネット上に公開されているわけだし、近頃は雑誌に書いた原稿もウェブに転載されたりするしね。SNSに参加していないのは、ただただ面倒ということに尽きます。ROM(読むだけ。昔のパソコン通信時代の用語でいうリード・オンリー・メンバーってやつです)でいいやと思ってる。 さて、前回のあなたの話でおもしろかったのはこれでしたね。↓
<最近は定年で退職した男性が右傾化する現象が顕著らしい。時間ができてスマホをやってみようと手にしていろいろ記事を読んだりしているうちに、「自分は知らなかった」「騙されていた」などと「隠されていた真実」に気づくのだとか。
そうそう、「父親がネット右翼になってしまいました。どうしたらいいでしょうか」という若い世代の相談が、最近はマジで増えているらしい。でさ、その「父親」っていうのは私たちと同世代だったりするわけだよ(こわっ)。 それ、すごくわかる気がするんだよね。私らの学生時代(70年代後半)って、大学がレジャーランド化された時代だったじゃない? おそろしいほど勉強しなかった。サークルにうつつ抜かしていられたし、学生運動もキャンパスからは消え去っていた。歴史認識についてなんか考えなくても学生生活は送れたし、社会人になってからはもっとだよね。だから死ぬほど歴史音痴。そのまま政治にも興味をもたずに働きつづけ、定年を迎えて暇ができてネットにハマり……みたいな。遅れてきた政治老人。ありえる。
それに関連して、歴史修正主義にハマる人や、いわゆるネット右翼のほとんどは、中高年の、特に男性であることが最近の研究でわかってきた(共同研究『ネット右翼とは何か』など)。この傾向は右派に限らず、左派系の市民運動でも同じ法則は当てはまるよね。市民団体の集会なんかにいっても、参加者はほとんどが中高年じゃない?(高齢者といってもいい)市民団体の場合は女性もまあまあいるけど、それでもやはり男性中心。右も左も政治にハマってるのは中高年の男性ばかり。これはどういうことなのだろうか。
まずジェネレーションの問題から行くと、やっぱり運動の方法論が大きいよね。はっきりいうと、戦い方が五十年一日だ。デモ、集会、街宣、「○○はやめろ」的なシュプレヒコール。60年代、70年代から何も変わっていない。前から言っているけど、この種の誰かを排撃する形式の運動は限界があるんじゃないだろうか。 反原発や反基地運動などの地域闘争を長年たたかっている人を、私は尊重したいし敬意も感じているけれど、半面、これじゃ外には広がらないよなとも思う。 昨年の参院選以来、れいわ新選組が若い人たちも含めた支持をなぜ集めたのか、まじめに考えたほうがいい。山本太郎さんの演説は、もちろん政府批判もがんがんやるけど、聞く人、今まで政治に関心がなかった人に「寄り添う」形をとるじゃない? そこへいくと、既成の運動体は、どこかやっぱり偉そうなんだよね。左派リベラル系の偉そうな態度は、なんとかならないのだろうか。
でもって、これに関係してくるのがジェンダーの問題なのよね。 12月に発表された最新のジェンダーギャップ報告書(GGGI)」で、日本が過去最低の121位になったのはご存知ですよね。このところずーっと100位以下で低迷していたとはいえ、153か国中121位は世界最低レベルである。 中国(106位)にも韓国(108位)にも抜かれ 、前回の110位からさらに順位を落とした最大の理由は政治部門の低迷で、女性議員や女性閣僚の少なさが響いたらしい。政治部門だけでいけば144位だからね。下から10か国に入ってるわけよ。 ジェンダーについても政治についても私はそれなりに関心を払ってきたつもりだったけど、女性議員の少なさについてマジメに考えてきたかというと、じつはそれほどでもなかったといわざるを得ない。それじゃまずいと思ってこの機にちょっと勉強したわけ。それであらためて愕然とした。
男女平等が進んでいるのはEU加盟国や北欧諸国のイメージだけど、もはやそれだけではない。女性議員(下院)の比率でいうと、上位に並ぶのはアフリカや中南米の国々で、19年2月現在、トップはルワンダで61.3%。以下、キューバ53.2%、ボリビア53.1%、メキシコ48.2%、スウェーデン47.3%、グレナダ46.7%、コスタリカ45.2%、ニカラグア44.6%、南ア42.7%。 ヨーロッパでは70年代に女性議員増加策が進んだんだけど、アジア・アフリカ諸国がめざましい進歩をとげたのは20世紀終盤、中南米諸国が著しく進歩したのは21世紀初頭。多くの国が採用しているのは、候補者のうちの一定の割合(多くは30%以上)を女性に割り当てるジェンダークオーター制で、どの国も血の滲むような努力をして、制度を整えてきたわけよ。 30%というのは、国際機関や各国議会が指針にしている数字で(クリティカル・マスという)、最低でもこのくらいの数字がないと、女性は自由に発言できないといわれている(前田健太郎『女性のいない民主主義』)。女性がそれ以下の組織では、いろんな弊害が起きるというわけ。たとえば、男性が一方的に説明し、女性は聞き役に回る(マンスプレイニング)。男性が女性の意見を遮って発言する(マンタラプション)。女性の発言を自らの意見として男性が横取りする(プロプリエイション)。「あるある」ですよ。
で、日本の現状に戻ると、衆院の女性議員の割合は10・2%(下院の国際平均は24.3%。日本とアラブ諸国が足をひっぱっている)。参院でも22.9%。国会議員だけでなく、事務次官や局長といった中央官庁の最高幹部の女性占有率が3・6%(OECD加盟国の平均は一ケタ多い33%)。ちなみに最高裁判事も、現在は15人中女性は2人。 これだから、いろいろとダメなんだと思いましたね。選択的夫婦別姓法案が通らないのも、セクハラやレイプに対する法整備が進まないのも、このせいだ! 国会議員や官僚だけじゃなく、他の組織もたぶん似たようなもので、左右を問わず政治的な活動をしている団体も例外ではないんじゃないだろうか。 日本は世界的にみても、民主主義に対する意識がものすごーく低い。そのことをしっかり認識しないと先には進めないとあらためて思った次第。女性が増えれば、運動の方法論も変わり、若者にアピールできる組織に変わる可能性もあるような気がします。
以上が年頭に思ったことでした。 セミの件だけど、森君は、セミの羽化の観察をしたことない? 私はそれ、7月の夜のお楽しみのひとつなので、必ず近隣の神社にセミのようすを見に行きます。今年の夏はぜひどうぞ。
斎藤美奈子
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