現代書館

WEBマガジン 20/06/29


web掲示板談話 斎藤美奈子・森達也 第104回

件名:コロナとミサイルとオオスズメバチ
投稿者:森 達也

美奈子さま

 いきなりだけど、お餅で喉を詰まらせて死ぬ人は年間何人か知ってる? 年間の統計はなかなか見つからないのだけど、毎年一月には日本国内だけで1300人前後が亡くなるらしい。餅の消費は1月がいちばん多いとして、年間では2〜3000人くらいになるのかな。
 日本の新型コロナウィルスによる死者数は、この原稿を書いている6月26日の時点で971人。ちなみに世界全体では(6月26日のデータによれば)48万3872人。最も被害が大きいアメリカは12万2238人で、次いで被害が大きいブラジルでは5万3830人が死亡している。
 日本の死者数が圧倒的に少ないことは確かだけど、人口に比してPCR検査の数が圧倒的に少ないことも確かなので、額面通りに受け取らないほうがいいのかもしれない。
 人はなぜ死ぬのか。理由やメカニズムじゃなくて要因やきっかけ。2018年の交通事故死者数は4,595人で、水難事故の犠牲者数は692人。ここからは2016年の統計になるけれど(現在とそれほど大きな違いはないと思う)、総死者数130万7748人のうち、最も多い要因はやっぱりガンで。総計で37万986人。以下に心疾患、肺炎、脳血管疾患などが続く。自殺は2万1017人。転倒や転落死は8030人。浴槽内で溺死した人は5632人。凍死は1093人で、熱中症で亡くなった方は621人。
 統計を眺めながら、何を対策して何を軽視すべきかを考える。軽視すべきという言いかたは適確ではないかもしれないけれど、でもリスクの見極めは重要だ。
 もちろんコロナは感染力の強い伝染病だ。転落死や誤嚥による死とは違う。それは大前提であるけれど、コロナ後の世界を考えるとき、ガンや心臓疾患と同じように人を死へいざなう要因が一つ増えた、という見方は決して間違いではないと思う。

 見方とは視点。これが変われば認識も変わる。例えば今日、河野太郎防衛相が地上配備型迎撃ミサイルパトリオット(PAC3)で迎撃した後に落下した(PAC3の)破片の被害を容認する考え(つまり被害が出ても仕方がないとのスタンス)を記者会見で示した、などの記事を読むと、そもそもは北朝鮮のミサイル実験(弾頭に火薬は積んでいない)の際の危機(破片落下)回避のための迎撃だったのでは、と訳がわからなくなる。まあもちろん、イージスアショアややパトリオット導入の本来の目的は、実験として発射されたミサイルを標的にするだけではなく、弾頭に火薬や核兵器を搭載したミサイル迎撃のはずだと思うけれど、ならばそうならないための外交努力が大前提なのに、それをやらずしていたずらに敵基地攻撃とかなんとかヒートアップしている政治家(ほぼ自民党)が多すぎる。
 抑止力は諸刃の剣。20世紀以降、侵略や征服を大義にした戦争はほとんどない。最悪の事態は常に自衛の意識の発動と共に始まる。敵基地攻撃はまさしく究極の自衛。
こうして多くの人が死ぬ。歴史を真摯に見つめれば、人類はそんな失敗を繰り返していることにすぐ気づくはずなのに。

 ところで上にあげた2016年の統計、ハチに刺されて死んだ人が19人います。アナフィラキシーがあるからアシナガバチやミツバチも含まれているかもしれないけれど、おそらくほとんどはスズメバチだと思う。
 いま僕は東京ではなく、近隣の田舎住まい。ここ数年、オオスズメバチが増えてきたような気がする。特に今年の春は、コロナで蟄居を余儀なくされて家の裏口周辺などを所在なくうろうろしていたら、ちょうど巣作りを始めたばかりのキイロスズメバチ(あるいはヒメスズメバチかも)の女王を発見して、可哀そうだけど今後を考えて駆除した。さらに玄関周りには時おりオオスズメバチが飛んでいて、これは毒の強さも攻撃性も別格なので、トラップをいくつか仕掛けた。
 数匹の女王はとりあえず駆除できたけれど、でもネットでググると、巣作りを始めたばかりの女王には攻撃性はほとんどない、との記述も見かける。どうかなあ。実際につい数日前、カチカチと顎を鳴らして威嚇する個体に追いかけられたことがあるけどなあ、などと思いながら、コロナはともかく無駄な殺生はしたくないと思う日々です。クビアカツヤカミキリは知らなかった。外来は標的になりやすいよね。セアカゴケグモとかヒアリとか、一時はメディアでとんでもない生きものが襲来したみたいな報道だったけれど、あれはいったい何だったのか。
 そういえばオオスズメバチ対策として殺虫スプレーを探しにホームセンターに行ったら、最近のスプレーはターゲットで細かく分類されていることに気がついた。カメムシコロリ。ムカデジェット。アリキラー。多くのスプレーには禍々しいハチやゴキブリやムカデのイラストが描かれているのだけど、ゲジゲジの絵もよく見かける。あんな平和な虫はいないのに。人には危害を加えない。しかも(この区分は好きじゃないけれど)益虫。なのに外見だけで敵認定されて標的にされる。後先考えない敵基地攻撃。過剰に発動する危機意識。なんか取り留めないけれど、そうした状態がいちばん厄介であることは事実だと思う。

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