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生活保護が「最初で最後の拠り所」とは……![]() |
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「百年に一度の不況」の到来と言われています。ニュースのたびに千人、万人単位の人員削減が報じられ、一人ひとりのこれからの生活を想うと、身震いする想いです。 年末には、雇い止めや契約打ち切りで職と住まいを一度に失った派遣労働者の支援で設けられた「年越し派遣村」が大きな注目を浴び、厚生労働省が建物の一部を開放したり、生活保護の開始を即日か数日で決定するなど、異例の対応をしました。生活保護の申請に応対した千代田区・中央区などは、都の職員の応援も受けて、「急迫保護」ということで迅速な対応をしたと言っていました。 ボストンバック一つで数カ月単位で派遣先から派遣先へと渡り歩き、契約を切られて寮を追い出されたら住むところがない。どんなに探しても仕事につけず、所持金がなくなり、雇用保険も健康保険もない。そんな働き盛りの年齢の失業者が一気に、大量に出現し、ホームレス化することを、労働者派遣法の規制緩和推進者は想定していたのでしょうか。 雇用保険などの社会保障がないまま仕事を失った人は年内だけで数千人はいるでしょう。その中で「年越し派遣村」にたどりつけた人はたったの5百人。それでも、これらの人が集団で厚労省に要求したからこそ、上記の異例の対応が実現したといえます。 社会保障がないないづくしの働き方を強いられ、失業してお金も住むところもなくても、今まで生活保護の窓口では、働ける年齢というだけで、すぐには対応してくれない現実がありました。曰く、「必要な書類を揃えてから来るように」「親やきょうだいに援助してもらえないのか」「若いんだから選ばなければ仕事は見つかる、もっと一生懸命探してください」。中には、「住民票がなければ受けられない」という全く法律違反の対応がまかりとおっていることすらあります。書類も、援助を受けられるかどうかも、仕事探しも、現にお金がないから生活保護を受けたいという申請を受け付けてから対応すればいいことです。申請を受理してしまうと、保護にあたるかどうか調べる責務は役所の側にあるので、申請する側にいろいろ用意させて時間をかせぐか、あるいは相手が諦めるのを待っているのだと言えます。 2百余名の保護申請に対し、その半分以上を即日開始決定し、残りも数日中に結論を出すという報道を聞いたとき、思わず、「やればできるじゃん!」と叫んでしまいました。 確かに、100%税金から出される生活保護は、国民の権利(生存権保障)とはいえ、怠け者に無駄な出費をしているのではないかという国民からの厳しい監視の目があり、適正保護のために調査は必要でしょう。保護が開始されてからも、単純に保護費(お金)を支給するという所得保障の部分と、就労支援や生活支援というソーシャルワークの部分と、二つの全く性質の異なる仕事を一人のケースワーカーが100人前後の生活保護利用者にたいして行わなければならないというマンパワーの問題や、異動で福祉事務所のなかに仕事の経験知が積み重なっていかないという機構的な問題もあるのでしょう。しかし、今回のようにマスコミの注目を浴びるなか集団で行けば緊急保護の対応をするのに、保護を必要としている条件は同じなのに、本当に困っていたらまた来るだろうと、即座に申請を受けつけないで一旦はお帰りいただくという今までの対応との差は一体何なのでしょう。 生活保護が利用者にとって敷居が高く、本当に必要な人も使えていない、利用者にとってスティグマを植えつける制度になっている、そして生活保護制度を運用する役所の中の問題点もいろいろある……。こうした問題意識のある生活保護制度の運用にかかわるケースワーカーたちが、福祉・医療分野で働く人、利用者たちと勉強会(東京ソーシャルワーク)を始めたのは20年以上前。私は障害者の所得保障問題からこの会に出会い、『How to 生活保護――暮らしに困ったときの生活保護のすすめ』を出版したのが1991年でした。当時、一般向けの生活保護のガイド本はまったくなく、利用者や病院・施設で働くソーシャルワーカーだけでなく、異動で福祉事務所に配属される新人ケースワーカーにも役立つという予期せぬ効果も生みました。以来、18年間、保護基準額や社会保障制度の変化に合わせて毎年、年度版を更新、さらに「福祉川柳事件」や介護保険制度、自立支援システムのスタートなど、大きな節目ごとに5回の全面改訂をしてきました。この間に生活保護関連の類書はずいぶん増えました。その中でも『How to 生活保護』は制度運用者の立場から、利用者に使いやすくというスタンスですので、とにかく保護を受けられるようにという申請マニュアル本とは、制度自体のあり方への提言をしている点で一線を画しています。 すでに厚労省でも見直しのための審議が始まっていますが、生活保護制度がかなり時代に合わなくなっているということを感じます。核家族化、単身化が進み、明治時代につくられた民法による家族制度や扶養の概念はもう消失しています。また、小泉構造改革で小さい政府を目指してきた結果、年金・医療保険・雇用保険などの社会保障の網がボロボロの大穴だらけになり、最後のセーフティネットである生活保護の前にいくつかひっかかるべき網がないまま、職を失ったり、病気をすると一気に生活保護しかないという人が急増しています。「派遣村」村長をした湯浅誠さんが「溜めがない」と表現していたように、貯蓄も、安定した住まいも、社会保険も、ついでに仕事仲間や友人などの人間関係を築くこともなく働かされて、一度坂を滑り落ちたら容易に這い上がれない、助けが何もない、そんな社会になってしまったと感じます。そこで頼れるのは生活保護だけしかないのに、未だに生活保護は高齢や障害・病気で働けない人が施しで受けるものという意識が国民の側にも蔓延しています。 一方で、本来「最後の拠り所」であるべき生活保護が、「最初で最後の拠り所」になっている今の社会政策がおかしいとも感じます。本来、雇用保険や再就職支援策、住宅保障政策などが整備され、基礎医療や公教育が無料であれば、職と住むところを失った働き盛りの人が即、生活保護に頼る必要はないのです。 『How to 生活保護』は2009年度版に向け、大改訂の作業中です。構成のし直し、問題点の抽出をしながら、本来生活保護制度はどうあるべきかの議論に花が咲き、なかなか原稿執筆が進んでいないのが、編集担当者としては頭が痛いところです。(猫) |
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