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夏の終わりとあの戦争と裁判員制度

夏の終わりとあの戦争と裁判員制度

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 「63年目の夏」が過ぎました。20代の私ですが、夏といえば蝉・夾竹桃そして戦争というステレオタイプな連想ができあがっております。私ども現代書館は飯田橋にあるため、「63年目の日」には、近所の国を安んずる神社にいらっしゃる方が前の通りを唄いながら駆け抜けていく様子が窺えました。来年こそは足を運んでみようかとひそかに考えております。

 さて「あの戦争」の時代、敵国アメリカでは壮絶な事件が起こっていました。

 時は遡り1934年、ロサンゼルスでは一人の男性が5つの弾痕から血を流し、ベッドサイドに倒れています。彼を射殺したのは、妻のネリー・マディソン。彼女は早々に捕まり、裁判にかけられます。
 このとき彼女に襲い掛かったのは、彼女を何としても死刑にしようとする政治・司法、毒婦として描き立て好奇心を煽るメディアでした。彼女は何故こんなに社会・世間から敵視されたのでしょうか。

 彼女は美しく、煙草を吸い、お酒を飲み、乗馬をし、射撃をし、家事をせず外で働き、極めつけは5回も結婚していました。しかも子どもなし。
 彼女のこの在り方は、非難の的として十分すぎる要素を兼ね揃えていました。彼女は当時の風習や道徳から見るとトンデモナイ女であり、破廉恥極まりない男の敵であり、ひいては社会の敵であると見なされたのです。「人殺しをした」という以上の敵視を集めることになってしまいました。

 当時アメリカは大恐慌の真っただ中にあり、あちこちで政治に対する憤りが燻っていました。なんとか民衆のウサを晴らして敵意を逸らせたい政治は、このセンセーショナルな事件の美しい犯人を、スケープゴートにしようと目論みます。司法にかかわる人たちも「女性に対する死刑判決」という「偉業」を我が物にしようと画策します。

 この事件の中で、彼女の運命を握る人々のなかで、とても印象的な動きをするのが、彼女の裁判に選ばれた陪審員たちです。
 彼らの判断は「有罪」。今回においてこの判断は=「死刑」です。しかし彼らは丸1年後「彼女を減刑するように」と表明するようになります。

 いったい1年の間に何があったのでしょうか? ……この続きは現代書館刊『私は、死なない――死刑台から生還した女』をどうぞご覧下さい! 本書では、具体的に参考となる陪審員の動き・心境がよく見てとれます。これから日本で始まろうとしている裁判員制度。賛成・反対を問わず、関心をお持ちの方は、秋の読書にぜひこの一冊を加えてみてください。

 戦前と言えば、新刊『戦争は教室から始まる――元軍国少女・北村小夜が語る』が刊行されました。こんなところでも、あんなところでも「戦争」を想起させる事態が進行しているようです。

 私の祖父・祖母は、戦争で辛酸を嘗める経験をしています。特に大陸に渡った祖母の苦労は、決して薄らぐことのない悲しみと辛さに塗れています。若輩には想像を絶する辛苦が、あの時代を生きた世代の人々の生活にかつてあったのに、そして彼らが滅んだわけではないのに、なぜ現代はこんなにも危うくなってしまっているのでしょう。63年という年月は、そんなにまで風化の力を持つのでしょうか。戦争とか戦争準備って、そんなにいいものなんですか?

 かように世の中の移り変わりは摩訶不思議ですが、裁判制度自体は今でもこれからも無くなるわけにはいかないだろうことは明白です。それでもやっぱり絶対実現しない究極の理想に対する代替行為ではないかという思いが拭えません。こんなことを書いていれば、裁判員に選ばれずにすむんじゃないかな、という根拠のない予想を勝手に立てています。万が一選ばれた暁には、千葉県出身者は全員無罪……なんていうことを書くと、本当に選ばれないですむかもしれません。

 罪も罰も公平も全て人工物ですから、これらを編み上げていくのは至難だろうと思います。「素晴らしい完璧な裁判」なんていうものは、原理的にあり得ないのではないでしょうか。もしそんな「完璧な裁判」があったら出てみてもいいかな、と思いますが。


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