|
第十回 タコ88匹は…… |
|
斎藤美奈子
インドネシア沖の海底で、ココナツの殻を道具として使うタコの生態が発見されたという記事が、2010年1月15日の朝日新聞朝刊に載っていた。夜のテレビニュースでも、ココナツを運びながら海底を這うそのタコの映像が、大発見みたいな雰囲気で紹介されていた。
見ました私も、このタコの映像は。 おっしゃるように、タコがこのくらいのことをやってもおかしくはないですよね。 「とにかく新発見的な記述のオンパレード」になるのは、科学の世界では「証拠」が重んじられるからではないでしょうか。経験的に見たり知ったりしている人がいくらいても、映像などの証拠があり、それが客観的に認められなければないも同然という習慣のゆえだろうと思いますが。
「畑の大根を掘るとか缶の蓋を開けるとか(これは実話)、前々からとても気になっていた生きものです。たぶん「虫愛ずる姫」である美奈子さんは、タコに興 味ありますか?」
タコは飼ったことはないけど、興味はありますよ。 脊椎動物のなかでもっとも脳が発達しているのはヒトですが、無脊椎動物の中でもっとも賢い(脳細胞が多い)のはタコだったはずです。計算根拠が何だったかは忘れましたけど、ウチの事務所(子ども向けの生物系図書の編集をなりわいとしてました)では、「タコ88匹寄ればヒトの知恵」といっていた(笑)。 とはいえ、水をかけるわけじゃないけど、↓これは難しいと思うよ。
「実は今、イイダコを観賞魚としてブリーディングするという事業を考えている。 海生としてはフグやらクラゲやらがブームの時期があったけれど、タコは圧倒に賢いし、圧倒的に丈夫だ。マダコやミズダコは水槽で飼育するには大きすぎるけれど、イイダコは15センチ前後しかないし、個体数も多い。絶対に飼育に向いていると思う。誰か事業資金を出してくれないかな。ここに書いちゃうと誰かに先を越されてしまうことが心配だけど」
「ここに書いちゃうと誰かに先を越されてしまう」心配はあまりないと思うな。そんなコストパフォーマンスの悪い事業に手を出す人は、おそらくいないと思うから(笑)。賢い、丈夫ということと、飼いやすいかどうかは違うしさあ。まして飼育と累代飼育(ブリーディング)の間には天地の開きがある。熱帯魚や日本の淡水魚なら、わが社でもさんざん飼育しましたが、海水魚や無脊椎は敬遠してました。海水の調達と水質管理が大変だから。たとえばイカは、水族館でさえ飼育の難しい生き物で、いまでもイカのいる水族館は少ないんじゃないだろうか。 下は魚津水族館の質問コーナーに載っていたイイタコの繁殖の仕方です。
Q イイダコの繁殖にチャレンジしたいのですが、抱卵個体の見分け方 などがあれば教えて頂けますでしょうか? A イイダコの抱卵は、メスが貝殻の内側を利用して行うので、抱卵中 のメスの入手は困難です。そこで、イイダコを水槽飼育して、産卵、孵 化させる方法をお教えします。 まず、雌雄がはっきりしているイイダコ(できたら2ペアー)ほどを水槽で飼育してください。そして、隠れ家になる貝殻を必ず入れます。 するとイイダコは、好みの貝殻に入ると思います。しかし、しばらく様子を見て、縄張り争いが激しいようなら水槽を2つに仕切ったり、イイダコの数を減らす必要があるかもしれません。また、新たにイイダコを追加する場合は、もともとの縄張りを壊すために、水槽の中の貝殻の位置をすべて変えると、縄張り争いを緩和できます。そして機が熟すると交尾をし、メスは貝殻の中に米粒のような卵を産みつけます。
縄張り争いをするとなると、たとえ累代飼育に成功しても、売るほど大量に飼育 するのは難しい。万一大量飼育に成功しても、それを観賞用に飼いたい(買いたい)と思う人がどのくらいいるかだよね。 と、思わずマジレスしてしまいましたが、森くんは何か、生き物、飼ってます?
私はいちおう昆虫協会の会員ではありますが、特に「虫愛する姫」ってわけではなく、一時期、熱心に飼っていたのは爬虫類です。ヘビもトカゲもカメも、たくさん飼った(自宅でも事務所でも)。ウチに遊びに来る人は、だから、変な生き物がどこからか出現するんじゃないかと、みんなビクビクおびえてた。リクガメなんか、部屋で放し飼いにしてたからさ。 いまは軟弱になって、哺乳類(ネコ)しか飼っていませんが、爬虫類はおもしろいです。そして、みんな生き物を飼うことを、簡単に考えすぎているように思う(森くんがそうだといってるわけじゃない)。 よくペットの爬虫類が町中で見つかって騒ぎになることがあるじゃない? ニュースでは「心ないマニアが飼いきれなくなって捨てた」などと報じられますが、マニアが「捨てる」ことはあり得ない。好きじゃなきゃ、そんなの飼わないし、多大なコストをかけて飼っている以上は捨てない。 捨てたんじゃなくて、かれらは、隙があれば「逃げる」のね。 とかいうと、閉じ込めているのが悪いんだとか、そもそも野生動物を飼うこと自体が自然に反する行為だとかいう人が必ずいるんだけど、そういう「もっともらしい」ことを言う人こそ、ほんとは自然を愛してなんかいないんじゃないかと私は思う。さあ、またまた論争的になってまいりました。
|
|
|
|
|
|