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web掲示板談話 斎藤美奈子・森達也 第162回 |
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件名:クルド人の祭り「ネウロズ」とETV特集放送延期 投稿者:森 達也
美奈子さま
3月23日、クルドの新春を祝う祭り「ネウロズ」に行ってきました。 僕を誘ってくれたのは、民族派団体「一水会」の木村三浩代表です。午前10時にJR西浦和駅の改札に行けば、10人ほどの屈強な男たちが集まっている。一水会のメンバーたちだ。木村代表の案内でマイクロバスに乗り込んで、ネロウズが行われるさいたま市の秋ヶ瀬公園に向かいました。 今さらだけどクルドとは何か。「国をもたない最大の民族」と呼ばれるクルドは、トルコやシリア、イラン、イラクなどに散在していて、どの国においても少数民族として迫害を受けてきた。日本では埼玉県を中心に2000人から3000人ほどが暮らしているけれど、その大半は難民認定が下りず、仮放免状態です。つまり就労が禁止されていて、住民票も持てない。国民健康保険に入れないから病院で受診することができないし、生活保護など最低限のライフラインの受給も認められない。そして、家族がいて日本で生まれた子供たちもいるのに、いつ拘束されて強制送還されるかもわからない。 要するに基本的人権が認められていない。入管法改正(現状は改悪)について考える以前に、なぜこんな制度が合法なのかとあきれてしまう。諸外国と比較しても、もちろん一定の制限はあるけれど、ほとんどの国では公的支援はもっと充実している。 数年前から国連の「自由権規約委員会」は、労働や生活保護受給を禁じる日本の仮放免制度は人権侵害の疑いが濃いとして改善を促すように要請しているけれど、日本政府はいっさい応じようとしていない。 さらに数年前から、ネット上で彼ら在日クルド人に対してのデマや誹謗中傷が増え始めた。日本人に暴行を加えた。子供を使ってスーパーで万引きさせている。公園を違法に占拠している。などなど。 そのほとんどは虚偽です。つまりヘイト。以前はごみの出し方など生活習慣の違いでトラブルは確かにあったが、今は日本人を中心とした支援団体もでき、クルド人の有志も夜の巡回やごみ拾いなどに定期的に取り組んで、日本に溶け込む努力を続けている。 バスが公園に到着する。集まっているのは色鮮やかな民族衣装に身を包んだクルドの男と女たち。子供もたくさんいる。おそらく1000人近い。日本人もたくさんいる。みんな楽しそうに踊っている。 空は青く風は暖かい。まさしく春爛漫。でも祭りの場にはふさわしくない雰囲気を持つ人たちもいる。公園の周辺を包囲するように立つ埼玉県警の警察官たちだ。バスから降りた一水会の男たちも、周囲に鋭い視線を送っている。 その男たちが公園の一角に走る。十数人の日本人もあとに続く。僕もあわてて走る。 一角にいたのは一人の中年男性だ。ヘイトを許すなとのプラカードを掲げた日本人男性と激しく口論している。その後ろに立つ一水会の男たちは、無言で中年男性をにらみつける。周囲の日本人たちが「帰れ」と声をあげる。 何が起きているのかわからない僕に、日本人女性の一人が説明してくれました。中年男性はクルドに対するヘイトスピーチやデモなどで前面に立つ一人とのこと。警備が厳しくなって表立った街宣はできないが、こうして挑発に来ることをネットで予告していたという。 それからも散発的に、ヘイトの前面に立つ男や女が来るたびに、反ヘイトの人たちや一水会のメンバーが立ちふさがる。カメラをかまえたメディア関係者も多い。NHKの青山浩平ディレクターがいる。闘うジャーナリスト安田浩一も走り回っている。クルド人との共生を訴える支援団体「在日クルド人と共に」の温井立央代表理事とも久しぶりに会った。安田菜津紀さんとも言葉を交わした。一水会の木村三浩代表が、顔見知りの在日クルドの人たちを紹介してくれる。あらゆる差別やレイシズムに反対し続ける木村代表は、日本クルド交流連絡会顧問の肩書も持っている。そして一水会の他のメンバーたちも、排外主義は絶対に許さないとの思いは共有している。 ベトナム王朝の最期の王子の数奇な半生をテーマにした「クォン・デ もう一人のラストエンペラー」を書いたとき、来日したクォン・デを庇護した頭山満と玄洋社について調べました。もちろん名前くらいは知っていたけれど、日本における右翼の源流で戦後はGHQによって解体を命じられた団体であるというレベルの知識でしかなかった。 でも実際に調べてみて、その見方があまりに浅いことに気がつきました。頭山が結成した玄洋社の前身は、自由民権運動を理念とした向陽社です。その後に頭山が国家主義に傾いたことは事実だけど、大アジア主義を唱え続け、クォン・デだけではなく孫文やラス・ビハリ・ボース、蒋介石などアジアの独立運動家たちを、盟友でもあった犬養毅とともに支援し、また彼らからとても慕われていたことを知りました。軍部による傀儡国家として満洲国が建国されたときは、アジア主義の理念とは違うと頭山はその行く末を案じ、来日した満洲国皇帝溥儀の公式晩餐会への招待を「気が進まない」との理由で断わったとのエピソードは有名です。 頭山だけではなく、中野正剛や中村天風、宮崎滔天や内田良平など玄洋社の主要メンバーたちが、今の日本を覆う外国人排斥やヘイトデモを見たら何と言うだろうと考える。間違いなく彼らは、外国人差別や排斥に対しては反対するし、対米従属については強く諫めるはずです。 終わってから駅前の居酒屋で打ち上げ。真の民族主義は日本民族だけが優秀だなどと思い込むことではなく、すべての民族を尊重して仲良くすることです。髭を生やした強面のメンバーが言った。全員がうなずく。とても当たり前のこと。右翼も左翼も関係ない。ビールがしみじみと美味しかった。 青山浩平と小黒陽平がディレクションしたETV特集『フェイクとリアル 川口 クルド人 真相』は4月5日に放送された。僕はこの日は地方にいて視聴できなかった。9日の再放送を見るつもりでいたが、直前に放送が中止された。正確には延期らしいが、NHKプラスやオンデマンドなどでも配信されていない。以下はこの番組についての産経新聞の記事。 https://news.yahoo.co.jp/articles/ff717d04c3c9388e432fe4b83fc67a645b071463
何かが起きている。とても嫌な何か。そう思いながら吐息をついています。
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