現代書館

WEBマガジン 10/07/16


第十七回 もう「過去」の話?

斎藤美奈子 

森 達也 様


 鳩山辞任から1カ月。気がつけば普天間基地問題はすっかり「過去」であるかのように忘れ去られ、参院選の争点はいつのまにか消費税に移っていて(菅氏がちらっと口にしただけの消費税10%論を無理矢理「争点」に仕立て上げたのはマスメディアだと思いますが)、日本人はいつからこんなに忘れっぽくなったんだ、という感じです。
 
「鳩山辞任のその日、NHの仕事でワシントンDCにいたのだけど、取材していたワシントンポストの記者から、「なぜ鳩山が辞めなければならなかったのか、どうもいまひとつピンとこないのだけど」と逆に質問されました」

あ、そのテレビ、一瞬見ました(中身までは見てません。ごめんなさい)。
しかし、日本人はいつからこんなに……に関していえば、私自身も例外ではありません。

そんなに「抑止力」が重要だというなら、普天間飛行場は茨城空港か静岡空港にもっていけばいいんだよ。だって日本には99もの飛行場があって、その9割は赤字なわけでしょう。だったらそのどこでも代替地になりうるじゃない。民間機の騒音ならよくて米軍の訓練機はイヤだなんて理屈は通らないんだから、全国の地方自治体の長は(住民も)「ぜひわが○○空港に」と名乗り出ればいいじゃないのよぉ。そうすれば、空港は活用される。赤字は解消する。設備はすでにあるのだから自然破壊も回避できる。地域振興には役立つ。「国益」にはかなう。恥ずかしい空港を建設させてしまった罪悪感も払拭できて、「君たちはえらい」と全国の尊敬を集めて、沖縄県民からも感謝されて、みんなハッピーなんじゃないの。
……などと息巻いていたのですが(もちろん半分は冗談というか皮肉ですが、半分は本気です。「東京に原発を」の論理です)、いまは心密かに沖縄県民に連帯しようと思うだけです。〈宜野湾市の伊波洋一市長が、米軍普天間飛行場使用無効を求める訴訟を国を相手に起こす考えを表明した〉というニュースを聞いて、「よし、がんばれ」とは思っています。政府の一発解決に期待できないなら(政権交代によって「一発解決」が可能かと期待した人は多かったわけですが)、あとは地道に市民運動を続けるしかありません。それは新潟県巻町の反原発運動を見ていて学んだことです。
巻町だって、私たちが大学生だったころは原発誘致賛成派が(賛成派がですよ)1万人集会とかを開いているのに、おどろきあきれ、新潟はもうおしまいじゃ……と思ったこともあったのですから。ってこれは余談でしたね。


口蹄疫について。
 「騒動発生時に鳥越俊太郎さんが「人に感染しない、食べても大丈夫。ならば、なぜ(殺処分など)そこまで厳重にするのか」とテレビで言ったとして、ずいぶん批判されたようだけど、これについては僕も同意見。殺処分の前にもう少し考えたほうがいい。確かに牛や豚は経済動物だけど、あまりに無感覚になりすぎていると思う」

 なるほどねえ。全頭殺処分にするのは薬品メーカーの陰謀だという意見すらありますもんね。  
 ただまあ、「殺処分の前に考えること」はあるとしても、「あまりに無感覚になりすぎて」はいないと思うけど、だれも(みんな、心くらいは痛めているでしょう)。
 感染力は強いけど、症状そのものは軽く(快癒することもあり)、ヒトにも感染せず、食べても人体に影響のない口蹄疫。
 その前提でいえば、鳥越さんまたは森くん式の考え方は「口蹄疫と共存していく」方向ですよね。それに対して徹底的な防疫処置をとる、すなわち「疑わしきは皆殺し=病気は撲滅する」が先進国のやり方です。具体的に音頭をとっているのは、OIE(国際獣疫事務局)やFAO(国連食糧農業機関)やWHO(世界保健機関)なんでしょうけれど。
 どちらが望ましい方法論なのかはわかりませんが、実際には問題としては、「全頭殺処分」と「共存」と、どちらが経済的な損失が少ないかで、この件は判断されるのでしょう。農水省のトップページには次のように書いてあります。

〈口蹄疫は、牛、豚等の偶蹄類動物に感染する病気であり、それらの動物に由来する食品を摂取しても人に感染することはありません。しかしながら、偶蹄類間の伝播力が極めて強く、畜産業における経済的なインパクトも大きいので、農林水産省は宮崎県に協力して、感染の拡大を防ぐ努力をしております。また、偶蹄類への感染の拡大を防ぐため、感染した牛や豚の肉や牛乳を市場に出さないように確実に措置しています〉

 「畜産業における経済的なインパクトも大きい」のが口蹄疫の最大の問題であるとしたら、殺しても殺しても追いつかないほど病気が蔓延した場合、「経済的なインパクト」を考えて「共存」の方向にシフトが変わるかもしれない(実際、イギリスでは最終的に処分するかどうかは個別の農家の判断に任せることになったようですし)。

 ところで、この件でふと思ったのですが、「「共存」はアジア的(または仏教的?)、「撲滅」は近代西欧的(またはキリスト教的?)な発想が背景にあるように思われます。自然と(ウィルスとも)共生し、ヒトも動物も同等の生命と考えるか。自然を制覇し、ヒューマニズム(人間中心主義)で行くか。の差ですよね。
 そうだとすると、よくわかんないのがクジラ漁やイルカ漁に反対する(特に白人の)人たちなんだよね。
 彼らは(自らが属す文化であるところの)西欧近代合理主義に反対し、仏教思想に共鳴しているんでしょうか。
 牛なら殺してもよくて、クジラやイルカだとダメなんでしょうか(絶命危惧種かどうかという問題はさておくとして)。
 不勉強なのでわからないのですが、口蹄疫や鳥インフルエンザで、大量の家畜が「皆殺し」にされることに対して、動物愛護の人たちは大々的な反対運動を仕掛けたり、テロリズムを仕掛けたりしないのかな。大量殺戮だもん。絵的にはイルカ漁なんかより、そっちのほうがインパクトがあるような気がしますが。

 ということで、またクジラ&イルカに話が戻ってしまいました。
 そういえば、「ザ・コーヴ」の上映がはじまりましたね。イメージフォーラムは歩いていける距離にありますが、どうせ人が殺到しているだろうと思い(忙しくて時間もとれないんだけど)、当分、私はこの映画は見られません。
 上のバカな質問も、ちょっと思っただけですので、あまりこだわらないでください。

 ちょっと気楽な話を最後にいたしますと……。
 お弁当づくり、まだ続けていらっしゃいますか。>菊地さん
 「弁当男子」本を数冊まとめて読み、弁当はもっとも敷居の低い料理への道である、ということを発見いたしました。
 別の言い方をすると、料理はできなくても弁当はつくれるのだ、ということです。
 弁当男子、めちゃめちゃ好感度大です(笑)。

【最新記事】
GO TOP
| ご注文方法 | 会社案内 | 個人情報保護 | リンク集 |

〒102-0072東京都千代田区飯田橋3-2-5
TEL:03-3221-1321 FAX:03-3262-5906