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web掲示板談話 斎藤美奈子・森達也 第六回 |
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件名:多数派と共振している何か
投稿者:森達也 2013/3/18
3月14日、僕は参議院会館の一階講堂にいました。民主党の有田芳生参院議員が呼びかけた「排外・人種侮蔑デモに抗議する国会集会」に参加するためです。この時に配布されたチラシの文面を以下に引用します。
「在特会」(在日特権を許さない市民の会)などによる異常デモが、東京・新大久保(2月9日)、大阪・鶴橋(2月24日)で行われました。そこでは「朝鮮人 首吊レ 毒飲メ 飛ビ降リロ」「よい韓国人も悪い韓国人もどちらも殺せ」「ハヤククビツレ チョウセンジン」(新大久保)「鶴橋大虐殺」(鶴橋)などが主張され、「殺せ 殺せ 朝鮮人」といったシュプレヒコールが繰り返されました。3月31日には「新大久保排害カーニバル」なるデモが再び行われる予定です。韓国や北朝鮮との間でいくら国際問題があろうとも、在日韓国・朝鮮人に対して殺人教唆する行為は、公共の平穏を乱し、人間の尊厳を傷つけるもので、決して許されるものではありません。ここに国会議員有志が抗議集会を行い、排外主義、レイシズム(人種差別)の広まりを押しとどめる意志を表明いたします。
会場ではまず、2009年に彼らが京都朝鮮第一初級学校の校門前で行った差別発言の映像が上映されました。第一初級学校とは要するに小学校。幼稚園も併設されている。 そこに現れた在特会のメンバーは、「朝鮮学校、こんなもんは学校でない」「スパイの子供やないか」「北朝鮮のスパイ養成機関、朝鮮学校を日本から叩き出せ」などとマイクを使って怒鳴り続けました。もちろん校舎の中には子供たちがいる。じっと息を殺して聞いていたのだと思う。 その光景を想像する。久しぶりに心の底から腹が立った。あまりにも醜悪です。 映像上映後、『ネットと愛国』を書いた安田浩一が「彼らは右翼ではなくレイシストであり、絶対に放置してはならない」と発言し、彼らと裁判闘争を続ける上瀧浩子弁護士や金尚均龍谷大学教授などが実情を訴え、新右翼団体一水会の鈴木邦男最高顧問が「日の丸が泣いていました」と言い、木村三浩一水会代表が「彼らはレイシストですらない」と発言しました。 もちろん最後にマイクを渡された僕も同意見です。彼らは右翼ではない。保守でもない。弱者を見つけて攻撃して溜飲を下げたいだけの集団です。でも考えるべきは、彼らがこれほどに勢力を持った理由とその背景。いろんなところで言ったり書いたりしているけれど、やはり日本社会全体の集団化が進んでいる。集団は異物を排斥したくなる。敵を見つけたくなる。 つまり問題は在特会そのものだけではなく、彼らを醸成する今のこの国の雰囲気だ。会場には国会議員も多数来ていました。でも自民党議員は一人もいない。生保バッシングを繰り広げた片山さつき参院議員は、かつて彼らのデモに参加したことがある。
昨年の衆院選のときは、安倍晋三自民党総裁を応援する日の丸の小旗が乱舞した。投票前日の秋葉原では、安倍総裁が乗った街宣車を多くのネット右翼が歓迎して大熱狂だったらしい。僕はその場にいなかったけれど、多くの人から本当に胸が悪くなるような光景だったと聞きました。 2月に政府は高校無償化から朝鮮学校を除外することを決定し、大阪や神奈川など7都府県は朝鮮学校への補助金支給も見送った。川崎市は使わない補助金で拉致問題関連の著作や資料を購入するという。阿部孝夫市長は会見でこう言った。「抗議の意志を込め、(朝鮮高校の)生徒の各家庭に現物を配分する」。頭のねじが外れているとしか思えない。 3月17日に防衛大学の卒業式で安倍首相は、「我が国の領土・領海・領空に対する挑発が続いている。現場で起きていることは今そこにある危機だ」と発言しました。政治家は危機を煽る。その公式は知ってはいるけれど、あまりにも安っぽい。そもそも在特会が発足した2007年は、安倍第一次内閣の時期だった。
なぜ彼らは現れたのか。それは自明です。もちろん自民党政権だけに問題があるわけではない。政治とは政治家と国民との相互作用。彼らのこんな政策を支持する人たちが増えつづけている。この国の国民たちの多数派と何かが共振している。とても嫌な何かです。とても危険で陰湿で醜悪な何か。その動きは加速するばかりだ。
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