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WEBマガジン 13/07/19


web掲示板談話 斎藤美奈子・森達也 第十回

件名 :選挙前――「どうせ」を超えて

投稿者:斎藤美奈子 2013/07/19(Fri)



自公が勝つのはもはや自明のようですが、私はもう憂鬱モードは脱しましたので(笑)。
昨年12月の衆院選のあと、数ヶ月は絶望の淵にありましたが、ここで踏みとどまってはいけないと本気で考えたのです。それについては「ちくま」の連載「世の中ラボ」(これ自体は本来は書籍の紹介蘭なのですが)などに随時書きましたが、以下は、森くんも寄稿している『世界』8月号に書いた「『どうせ』を超えて」という原稿の一部。与党の無茶苦茶な政策とふがいない野党を前に、われわれはどうするか、という話です。

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 考えられる選択肢は、そうだな、三つくらいかな。
【A案】見捨てる。
 「もういいよ、一度落ちるところまで落ちないと、この国は変わらないんだよ」と考える。自暴自棄ってやつである。「もう亡命しようかな、ハハハ」とか。棄権が多い理由のひとつは、このタイプが存外多いためかもしれない。
【B案】それでも希望を捨てない。
 「いや、そんなに簡単にあきらめちゃダメだ」と考える。いまの政治が民意を正しく反映しているとは思えない。「見捨てる派」に覚醒を促し、浮動票を結集させれば(「どこに?」という問題はあるにせよ)、政権にダメージを与えることも可能なはずだ。最後まで頑張るぞ。オー!
 どっちがいったいマシなのだろう。
 正直、私もA案とB案の間でいつも揺れ動く。だが結論からいうと、A案もB案も有効な戦略とはいえない。「敗戦に匹敵する大打撃を被れば、有権者も少しは覚醒するだろう」とかつては私も思ったが、それが間違いなのは「いま」を見れば明らかだ。あれほどの震災と原発事故を経験しても、この国の有権者は変わらなかったのである。ではB案はというと、これも現実的ではない。この発想がよくないのは、予想通り負けが決まったときに代案が何もないことだ。残るのは絶望と疲労だけ。ただ愚痴を垂れ、結局A案に回収される。これを私(たち)は、何度繰り返してきたことだろう。
 では、どうするか。
【C案】負けを覚悟する。
 何のおもしろみもないが、結局これしかないのである。逆転の切り札が見つからない以上、どうせ自民党は参院選に勝つだろう。である以上、反自民派も「どうせ自民党が勝つ」ことを前提に、次の選挙(おそらく二〇一六年夏の衆参同時選挙)を目標に定める。で、それまでの三年半、せめて与党の暴走を食い止めるべく声をあげ続け、同時に「次の受け皿」となる政党の育成をマジメに考える。
 ああ、なんてつまらない案だろう。でも、これは民主党を政権とった三年半に対する深い反省に基づいている。
 二〇〇九年の政権交代はたしかに劇的で、しばらくはハイな気分だったけど、しかし結果はどうだったか。失敗の原因は民主党の「裏切り」だけではなく、「次の手」を考えずに対応した有権者の側にもあった。
 鳩山由紀夫首相が普天間基地の移設に関して「最低でも県外」と表明したとき、人々は「お手並み拝見」とばかり高見の見物を決め込み、ダメだとわかった途端、彼を首相の座から引きずり下ろした。3・11後、菅直人首相が浜岡原発の停止に踏み切り、「脱原発依存」への舵を切ろうとしたときも、民主党内の「菅おろし」に同調する形で彼を退陣に追いやった。昨夏、官邸前の脱原発デモが最高潮に達した頃、脱原発派は「大飯原発の再稼働を許すな!」「野田政権を倒せ!」と叫んでいた。お望み通り、野田政権は倒れた。それでどうなった? こうなったのである。
 民主党政権はたしかにヘタレだったし、始終ヤキモキさせられたが、原発、憲法、教育などに関しては現政権より相対的にマシだったといわざるを得ない。無責任に「倒せ!」と叫んでも、次の一手がなければ事態はさらに悪化するだけ。それをこの三年半で私たちは学んだのではなかったか。(引用おわり)

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要は目の前の選挙で一喜一憂していても先へは進まないっていうことです。
参院選の結果は目に見えてるよ。それでどうするの? またA案とB案の間を行ったり来たりするだけか斎藤!(そして森!)、と思うわけ。目先の参院選はダメだろう。しかし、ここを出発点と考えなければ、おもしろくもなんともない。

 たとえばの話ですが、山本太郎くんの出馬を「票が割れる」とかいって非難する左の人たちがいるじゃない? 「だから旧左翼体質の連中はあかんのじゃ」と私は思う。
 太郎くんもだけど、「緑の党」の推薦で全国区から立っているミュージシャンの三宅洋平くんの「選挙フェス」を知ってます?(YouTubeで検索をかけると、ゴマンとアップされています)。かなり、すごいことになっている。興奮するよ(笑)
 私たち世代の感覚だと、これは80年代の反核運動や、現世田谷区長の保坂展人さんがやってた反原発運動や、上々颱風(当時は「ひまわりシスターズ」というマイナーなバンドだった)の紅龍さんたちが出てきたときに似ていますが、60年代のLOVE&PEACEな運動(全共闘運動とはあえて言わない)もこんな風にはじまったのだろうなと思わせる。
 彼らは選挙に負けても、それは織り込み済みだから、へこたれないだろう。逆にいえば、彼らを潰そうとする左側の大人たちこそ、自分が運動の芽を摘んでいることに気づかない。それは明日の選挙のことしか眼中にないからだよね。
 
 〈こうして言論はどんどん萎縮して、一定の方向に刈り揃えられる。「売国奴」や「国賊」くらいは僕は馴れっこだけど、市井に暮らす人たちにとっては本当に怖いと思う〉

 というのはその通りだろうと思いますが、べつに今にはじまったことでもありません。〈こうして言論はどんどん萎縮して、一定の方向に刈り揃えられる〉のに抵抗するのが、私たちが分担できるささやかな役割なんじゃないでしょうか。
 森達也の弱点(美点でもあるのでしょうが)は、そのネガティブ志向である。ぜひ落ち込みモードから脱出されますように。
 原発も改憲もTPPも基地問題も、何もかもひどいことになっていますが、たった一度の参院選がどうなろうと、私は負けませんので。
 って、なんか、えらそうだな(笑)。貴君の嫌いな「笑」マークで締めてみました。




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