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WEBマガジン 14/02/05


web掲示板談話 斎藤美奈子・森達也 第十九回

件名 :NHKはどこへ行く
投稿者:斎藤美奈子  2014/2/1



森達也さま

 すっかり時間があいてしまいました。ごめんなさい。本日2月1日です。

■前回のNHK問題(?)の続き
 「ETV特集 戦場で書く 〜作家・火野葦平の戦争〜」はもちろん見ました。NHKスペシャル「日米開戦への道−知られざる国際情報戦」も見ました。
 NHKの番組班が「いい仕事」をしていることくらい、私も重々わかっています。最近だと尾野真千子主演のドラマ「足尾から来た女」もよかったよね。
 「頑張っている人たちはメディアにも少なくない。決して多数派じゃないけれど、必死に歯を食いしばっている。声をあげようとしている」
 という貴君のご意見。そんなこと、わかってんの。わかっているけど、自他共に認めるメディア批判の急先鋒たる森達也にしてはナイーヴな意見だなと思う。それは「自民党の中にも安倍の暴挙に抵抗しようと頑張っている人はいる」「読売新聞の中にも反ナベツネの人はいる」ってのと同じじゃない?
 私が個人的に知っている各社の記者や編集者も、会社の暴挙にどう抵抗しようか、みんな考えていますよ。山口さんのメールには共感しますが、しかし報道はどうなのか。局全体に対する「NHKが死んだ日」という私の評価は変わりません。

 などといっているうちに、一月には籾井勝人氏がNHKの新会長になり、就任会見でトンデモ発言を連発した。そしてNHKのニュースはそれをちゃんと取り上げなかった。これを批判するのは簡単なんですが、森君の「連帯したい」という提言に従って、というより単純に心配になって「日放労」のHPを見て見みたの。非常に長い、そして言い訳がましい「メッセージ」が2回にわたってアップされていました。
新しいほうメッセージの一部を抜粋します。


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http://www.nipporo.com/messages.html

 会長が国会、しかもNHK予算の審議ではなく、国政全般を議論する予算委員会での答弁を求められるのは異例中の異例だ。放送法はまさに、その趣旨において、政治など外部からの不偏不党等を保証し、主として放送局と視聴者の関係のなかで放送の表現の自由を確保することを求めている。その放送局、とりわけ公共放送局のトップが国会で異例の答弁を求められるという、NHKの運営に政治が強く関わる事態となったことは、今後の自主自立について禍根とならないか、危惧せざるをえない。

 NHKのガバナンスにも改めて議論が起きているが、組合として、民主主義に基づく正当な手続きで担保されている仕組みについて批判することはない。ただ、こういう事態となった今、経営には、「放送法の趣旨」を公共放送がどう受け止めて日々の業務にあたっているのか説明して、社会の理解を早急に回復する方策をとるよう求めたい。
(14.01.31  中央委員長見解より)

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 すごくないですか? このもって回ったわかりにくい言い方!
 しかしともかく「会長に辞任を求める」とは言えないんだね、NHKの労組は。という病理の深さがわかったので、批判するかわりに良心的な職員への「連帯」のつもりで書いたのが1月29日掲載の東京新聞「本音のコラム」で書いた記事です。
 以下に張っておきます。


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 一月二十五日の就任記者会見で「慰安婦はどこの国にもいた」「政府が右と言うことを左と言うわけにはいかない」などと発言。世界中を驚かせたNHKの籾井勝人会長。
 発言内容はもちろん問題。しかし、もうひとつ見逃せないのは、この件をNHKが今のところまったく報じていないことである。新聞各紙が大きく報じ、あるいは社説で論じ、政権に甘い民法各局でさえニュースで取り上げているのにだ。
 自らの局内にアンタッチャブルな領域をもってしまうという皮肉。この時点で、すでに報道機関としてはアウトでしょ。図らずも爆弾を積んで離陸してしまった飛行機と同じ。飛ぶだけは飛んでるが、恐くてどこにも着陸できない。昨年の特定秘密保護法にいたる報道でも、NHKの迷走ぶりは際だっていた。
 NHK職員が加入する日本放送労働組合は二十八日、「籾井新会長の記者会見について」と題するメッセージを出した。会長発言を「異例」としつつも「今後の公共放送のあり方を放送法に即して考えていく上で、強い関心をもって見ていきたい」という歯切れの悪さ。
 私には悲痛なSOSに見える。彼らはすでに自力で爆弾を取り除く力を失っている。ならば視聴者がSOSに応じなくては。会長の辞任を強く求めよう。公共放送の健全性を取り戻し、国策放送化を防ぐにはそれしかない。
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 遭難しているNHKを救出したいという気持ちですよ、私は(そうは見えないかもしれないけど)。この後(別に私の功績ではないけど)各方面からようやく会長辞任を求める声が上がりはじめている。この「爆弾」が除去されて、職員の呼吸が少しでも楽になり、現場の風通しがよくなることを、私は本気で祈っています。


■都知事選をどう見るか
 話は変わって、東京都知事選まで、10日を切りました。
 森君は東京都民ではないんだっけ?
 それじゃ、あんまり興味はないか。……ってことはないですよね。
 この選挙戦が、非常に興味深いのは、有力候補とされる上位4人が、「右」から「左」までずらっと並んだことでしょう。もっかの情勢分析では、

 (1)自民党と連合の支援とりけた舛添候補がダントツ1位。
 (2)「脱原発」を掲げる、小泉元首相が応援団長をつとめる細川候補と、共産党・社民党の推薦を受けた宇都宮候補は、2人足しても桝添に及ばず。
 (3)石原慎太郎元都知事ご推薦の田母神候補は4番手だが追い上げ中。

 ということのようですが、実際のところはわかりません。
 街頭演説会の「集客力」は、細川(&小泉)陣営が群をぬいている感じです。しかし、街頭演会でエールを送る観客が「東京都民=有権者」とは限らないのが、東京の選挙のわかりにくいところ。都内で働いている人はかなりの数が「埼玉都民」「千葉都民」「神奈川都民」である可能性は大。私の知り合いの神奈川県民は「0.5票でいいから、意思表示だけでもさせろ!」といっていました。

 さて、もっかの焦点は舛添候補に「脱原発派」「反安部派」が勝てるかどうかですが、レフト&リベラル派は、非常に効率の悪い戦い方を強いられています。勝つためには、だれもが「票を割りたくない」と考えた。でも、それは実現しなかった。
 森君だったら、どうします?
 知人や友人と雑談し、あるいはネット上のブログやツイッターをくまなく探索し(昨年7月にネット選挙が解禁になったときには「関係ないや」と思っていたのですが、結果的にはネット選挙の恩恵を、私は非常に受けています)、いろんなことを考えたのですが、今日は書くのをやめときます。ごめん、肩すかしで。
 時間があったら、これについては(投票日前か後に)もう一度書きます。

最後に……
「いまどき左翼をやってるくらいだから頭が悪いんだなwww」
「だから、売国奴はクズだっていうんだよ 」
↑こんなくだらない妄言に、森達也ともあろうものが、いちいち傷ついたりなさいませんよーに。


斎藤美奈子

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