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web掲示板談話 斎藤美奈子・森達也 第三十三回 |
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件名 :衆院選の当日です。 投稿者:斎藤美奈子
森達也さま
本日、12月14日、衆院選の投開票日です。 事前の情勢分析では、自民党が圧勝と出ています。
衆院選は今回から定数が「0増5減」となり、小選挙区295、比例180の計475議席で争われる。過半数は238議席。衆院の常任委員長ポストを独占し、委員数も過半数となる絶対安定多数は266。このへんは、当然、越してくるでしょうね。 とは思っていましたが、12月4日の新聞各紙には一面トップにほとんど同じ見出しが並んだのを見たときには、さすがにメマイがしました。「自民、300議席超す勢い」(朝日新聞)、「自民300議席超す勢い」(毎日新聞)、「自公 300超す勢い」(読売新聞)、「自民、300議席うかがう」(日経新聞)。 公示前の自民党は293議席ですから、ゲッ、300超えかよ〜、というだけで頭がクラクラしましたが、その後の予想では、自民党が単独で3分の2(317議席)に達する(越す?)という、恐ろしいのもあった。あり得ない数字ではありません。
原発の再稼働も、特定秘密保護法も、集団的自衛権の行使容認も、普天間基地の移設問題も、派遣労働法の改定も、残業代ゼロ法案も、TPPの参加問題も、言論の封殺も、教育の劣化も、有権者の半分くらいは興味ない(あるいは、なんのことだかさっぱりわかんない)ってことでしょ? 「憲法だって、変えたきゃ変えればいいんでないの? オイラには関係ねーし」ってことだわな。封建時代の領民と同じだよね。 どこで彼らが「しまった!」と思うのか、こうなると、逆に興味がわきます。2度目の原発事故が起きたときでしょうか。それでも気がつかないような気がするな。
そんなこんなで、私が決めた勝手な「勝敗ライン」は、自民党が現有議席を1議席でも下回ればよしとしよう、というものです。安倍政権は過半数越えで「勝利」としていますから、それでもシレっと勝利宣言をするでしょうが、一個でも議席を減らせば、日本にもまだ再生の芽があると思える。まあ、それも難しそうな状況ですが。
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ところで、前回、貴君が書いていた天皇皇后の栃木訪問についてです。 「5月21日に、死を覚悟した田中正造の直訴を、初めて公式に天皇が目にしたわけで、これはもっと大きなニュースになるべきではないのだろうか」 と貴君はおっしゃいますけれど、いってる意味がよくわかりません。 「こうしてメディアはまた、天皇のサインをあっさりと見逃している」とはどのような意味なのでしょうか。天皇が出してるサインって何? 田中正造の直訴状を目にすることによって、天皇皇后が国民に何かを訴えようとしているってこと? 私たち国民はその(政治的な?)メッセージに耳を傾ける必要があるってこと? なんで耳を傾けなくちゃいけないの? 皮肉ではなく本当に「意味がわからない」のです。
美智子皇后は談話で五日市憲法にふれたことがありましたよね(調べてみたら、2013年10月の79歳の誕生日でした)。
以下引用 「 5月の憲法記念日をはさみ,今年は憲法をめぐり,例年に増して盛んな論議が取り交わされていたように感じます。 主に新聞紙上でこうした論議に触れながら,かつて,あきる野市の五日市を訪れた時,郷土館で見せて頂いた「五日市憲法草案」のことをしきりに思い出しておりました。 明治憲法の公布(明治22年)に先立ち,地域の小学校の教員,地主や農民が,寄り合い,討議を重ねて書き上げた民間の憲法草案で,基本的人権の尊重や教育の自由の保障及び教育を受ける義務,法の下の平等,更に言論の自由,信教の自由など,204条が書かれており,地方自治権等についても記されています。 当時これに類する民間の憲法草案が,日本各地の少なくとも40数か所で作られていたと聞きましたが,近代日本の黎明期に生きた人々の,政治参加への強い意欲や,自国の未来にかけた熱い願いに触れ,深い感銘を覚えたことでした。 長い鎖国を経た19世紀末の日本で,市井の人々の間に既に育っていた民権意識を記録するものとして,世界でも珍しい文化遺産ではないかと思います。」 引用おわり
こういう(改憲や現政権に釘を刺すような)談話は「痛快」ではあるけれど、そこに過剰な意味を見いだすのも、私はどうかと思うんだけどな。 今上天皇夫妻はいつも貴君がいっているように、たしかに「日本でいちばんリベラルな人」かもしれない。でもそれは「たまたま」であって(あるいは戦争を体験している世代だからであって)、今後の天皇がずっとそうであるとは限りません。である以上、こういうことは、天皇夫妻のパーソナリティとは関係なく、制度の問題として考えるべきじゃない?(現皇太子くらいはまだ信用できるれど、その後はもうわかんないよ。現に、明治天皇の「玄孫」を名乗る右翼文化人もいるわけだし)。
佐野っていうのはおもしろい町で、私も昨年(唐沢山城の登城をかねて・笑)訪ねたのですが、2013年は田中正造の没後100年の年で、いろいろ盛りあがっていた。記念顕彰事業の一環として、葬列を模したをコスプレ(もちろん田中正造の)大行進はあるわ、演劇はあるわ、田中正造あての子どもの手紙コンクールはあるわ……。「ダイアモンド☆ユカイさんが田中正造への想いを語るトークショー」っていうのもすごくない? 「しょうぞうくん」というゆるキャラもあって、直訴状を突き出した絵柄なの。 「郷土の名士」が田中正造である、っていうのは(故郷の名士が変な政治家や実業家だったのりするのに比べると)、子どもたちにとってもいいことだなあと感心して帰ってきたんだけど、その佐野市は今年「政治的である」という理由で「佐野九条の会」の後援依頼を蹴ったりしてますからね。なんだかなあ、です。 ちなみにいまの学校教育では、田中正造は政治色を抜かれた「環境保護の先駆者」という位置づけです。佐野市が昨年から設けた「田中正造記念賞」もそういう観点で選ばれる。田中正造も草葉の陰でジクジたる思いでいるんじゃないだろうか。
ごめんなさい。いささか脱線いたしました。 選挙結果のこととか考えずに、できれば森君とは足尾や佐野や田中正造について話したいよ。鉱山ファンの私としては、足尾銅山もじつはかなり好き。菊地さんには、鉱山や炭鉱が「好き」ってどういうことだ、とまたあきれられそうですが(苦笑)。
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