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WEBマガジン 14/12/24


web掲示板談話 斎藤美奈子・森達也 第三十四回

件名 :この国の「忖度」について
投稿者:森達也

斎藤美奈子さま

前回の
>天皇が出してるサインって何?
>皮肉ではなく本当に「意味がわからない」のです。
だけど、答える意味があるのかどうか考えています。要するに美奈子には、今上天皇の一挙手一投足にこうして過剰に反応することは如何なものか的な意識があると思うのだけど、田中正造の直訴文を初めて天皇が公式に読んだという事実だけでも、ニュースバリューは充分にあると僕は思います。わからないという感覚がわからない。夕日を見てきれいだなあとつぶやいたら、「なぜきれいなの? 説明して」と言われたようで当惑しています。
まあでも確かに、これをすぐに天皇からのサインと看做すことについては、それは過剰な忖度で危険だと言われても仕方がないかもしれないけれど。

昨日、朝日の慰安婦報道をめぐる第三者委員会の報告書が公表されて、その文書をとりあえず全部読みました。全体の感想としては、(謝罪を前提としていることは決定的な間違いだと思うけれど)危惧していたほど悪くはない。朝日が吉田証言をベースにした記事を掲載するとき、ウラを徹底して取らなかったことや検証が遅れたことは確かです。でもそれを言うのなら、当時の他のメディアはどうだったのか。その言及もほしかったな。注目すべきは、池上コラムの掲載中止を決めた要因を、「実質的には木村前社長の判断によるものと認められる」としたこと。記者会見で「木村氏らは嘘の説明をしたのか」と質問されて中込委員長は「そうやって思い込んで言っているみたいで、客観的
事実は違う。嘘か本当かはわからない」と答えている。これに対して木村前社長は「私が池上さんのコラムについて修正が必要だと強い調子で意見を言ったことが、編集担当の判断を左右する結果になったとの指摘も重く受け止めます」とコメントし、その「強い調子の意見」を直に聞いて修正の指示を下した杉浦前取締役は、「前社長とのやりとりを含めた経緯がどうであったかにかかわらず、結果として取締役編集担当として誤った判断をした責任は重大であるという気持ちに変わりはありません」と述べている。
きわめて玉虫色だけど、それは本質なのだろうとも思う。要するに(二人が嘘を言っているのでなければ)これもまた過剰な忖度だ。トップは指示していないと言う。でも側近は指示されたような気分になる。そして末端ではこの指示は命令になる。今回の朝日だけではない。例えば2万人を虐殺したと言われるカンボジアのS21
(トウールスレン政治犯収容)所長だったカン・ケク・イウは法廷で、「自分は命令に従っただけだ」と述べている。つまりアイヒマン。でもポルポトやイエン・サリなど党中央は「命令など出していない」と言う。クメールルージュやナチスドイツだけではない。かつて大日本帝国時代の御前会議も、やはり従軍慰安婦問題がからむNHKの番組改変問題も、そしてオウムの一連の犯罪の多くも、このメカニズムを当て嵌めればほとんど説明がつくと僕は思う。
要するに組織(共同体)の病理。でも集団で生きることをDNAに刷り込まれた人類は、この過ちを何度もくりかえす。

……などと偉そうに書いていたら、また冷やかされそうなのでこのへんにします。

>鉱山ファンの私としては

それは知らなかった。昆虫マニアであることは知っていたけれど。で、実は僕もというか僕の妻も、昆虫と鉱物(ミネラルフェアには可能な限り足を運んでいる)についてはかなりマニアです。その妻がこのあいだ本を出しました。以下は夫によるその書評の一部。

声の影響力はとても大きい。僕たちは気づかないうちに、その人の声に大きく影響され、いろいろ判断している。でもその自覚はほとんどない。刊行されたばかりの「『8割の人は自分の声が嫌い 心に届く声、伝わる声』 (角川SSC新書)http://prtimes.jp/main/html/rd/p/000001053.000007006.htmlは、その声について新たな視点を提示する本だ。読むと目から鱗が落ちる。いや鱗のレベルじゃない。いろんなものがぼろぼろ落ちる。視界がはっきりして、新たな世界がくっきりと現れる。なぜ東南アジアの人たちはしゃがれて甲高い声なのか。なぜ欧米の人は深くて低い声なのか。劣勢と言われたケネディがニクソンとのテレビ討論後に国民から支持されるようになった理由は何か。なぜオウム真理教の麻原彰晃は多数の信者を魅了できたのか。そうした背景が声によって分析される。声は人そのものなのだ。でも多くの人はそれに気づいていない。著者はさらに、お寺や教会やモスクなど、宗教施設はすべて天井が高い理由にも言及する。声を深く届けるため。ならばブッダやイエスやムハンマドがどのような声をしていたかも明らかだ。声には他者に対して大きな影響力がある。でもそれだけじゃない。自分の声を最も多く聴く人は誰か。答えはもちろん自分。ここで気がついた。声に意識を持つだけで、自分が変わるのだ。これ以上は書かない。あとは実際に本を読んでほしい。僕はいろんなことに気がついた。政治家や俳優、営業職や管理職、教師や店員。そしてもちろん宗教者。声が重要
な意味を持つ仕事やポジションはとても多い。でも多くの人はそこに気づいていない。

……宣伝になっちゃった。今度送りますね。是非読んでください、本当にいろいろ目から鱗なので。

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