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web掲示板談話 斎藤美奈子・森達也 第四十一回 |
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件名 :安保と表現 投稿者:斎藤美奈子
森達也さま
気がつけば、戦後70年と安保法案審議の夏は去り、九月になってしまいました。安保法制についても言いたいことは山ほどありますが、7月16日の衆院通過後、むしろ反対運動が盛りあがった感がありますよね。8月30日の全国一斉デモもすごかったけど、私が感動したのは、この間の市民の表現の数々です。以下は『AYS JAPAN』の最新号(9月号)に書いた「戦争法案に反対する 市民の表現力がすごい!」という文章です。ただし、誌面では紙幅が足りなかったので、作品の一部しか紹介できませんでした。ここでは全文を引用た形で転載します。
………………………………………………………………………… 7月16日に衆院を通過した安保関連法案。だが、これでみんなが意気銷沈するかと思ったら事態は逆で、政府与党の唯我独尊のやり方が市民の怒りに火をつけてしまった。特筆すべきは既存のメディアでも政府批判が目立つようになったことだ。 たとえば女性週刊誌。「暴走国??壊?≠ノNO!『戦争法案』とニッポンの行方」と題する特集を組んだ「週刊女性」7月14日号(主婦と生活社)。「強行採決『安保法制』 日本が壊れていく!」と題するメッセージ特集を打った「女性自身」8月4日号(光文社)。「女性セブン」(小学館)はどーしたと思っていたら、8月13号に 「安倍さんへ! 怒れる女性たちの爆発を無視するな!」と題する記事が載った。女性週刊誌が反安保法制に向かうのは、読者の声に寄り添った結果といえるだろう。
あと、最近、戦争前夜みたいな雰囲気になっているのが「朝日歌壇」(朝日新聞の短歌の投稿欄)である。 〈この国は見えない地図の中にあり九条を捨て何処に行くのか〉(7月6日) 〈特攻は命じた者は安全で命じられたる者だけが死ぬ〉(7月6日)〈憲法に合う世にすべき政治家が憲法を世に合わす策を練る〉(7月12日) 〈大国のうしろにつけば安全かおまえ前へ行けといわれたらどうする〉(7月12日)
法案の衆院通過後の7月後半には、若者たちへの連帯を示す歌が増えてきた。 〈戦場へ昭和生まれは送るひと平成生まれは送られるひと〉(7月20日) 〈若きらはシュプレヒコールをテンポよくラップにのせて繁華街ゆく〉(7月20日) そして自らデモに加わる人たちの歌。 〈「うちの子は戦死しました」と言いたくないだから私はプラカードを持つ〉(7月27日) 〈戦争をさせないデモへ行く夕べ君と食べてるカレーの平和〉(7月27日)
「朝日俳壇」だって負けてはいない(7月12日)。 〈七夕や竹槍持たぬ七十年〉 〈日本丸どこへ急ぐや稲の花〉 〈壊れゆく日本六月豪雨かな〉
散文の世界では、7月23日(大阪本社版は7月18日)の朝日新聞「声」欄に載った投書が大きな感動を呼んだ。 ………………………………………………………………………… 7月23日(声)学生デモ、特攻の無念重ね涙 【大阪】 無職 加藤敦美(京都府 86)
安保法案が衆院を通過し、耐えられない思いでいる。だが、学生さんたちが反対のデモを始めたと知った時、特攻隊を目指す元予科練(海軍飛行予科練習生)だった私は、うれしくて涙を流した。体の芯から燃える熱で、涙が湯になるようだった。オーイ、特攻で死んでいった先輩、同輩たち。「今こそ俺たちは生き返ったぞ」とむせび泣きしながら叫んだ。 山口県・防府の通信学校で、特攻機が敵艦に突っ込んでいく時の「突入信号音」を傍受し何度も聞いた。先輩予科練の最後の叫び。人間魚雷の「回天」特攻隊員となった予科練もいた。私もいずれ死ぬ覚悟だった。天皇を神とする軍国で、貧しい思考力しかないままに、死ねと命じられて爆弾もろとも敵艦に突っ込んでいった特攻隊員たち。人生には心からの笑いがあり、友情と恋があふれ咲いていることすら知らず、五体爆裂し肉片となって恨み死にした。16歳、18歳、20歳……。 若かった我々が、生まれ変わってデモ隊となって立ち並んでいるように感じた。学生さんたちに心から感謝する。今のあなた方のようにこそ、我々は生きていたかったのだ。 ………………………………………………………………………… 7月18日(声)安保法案の阻止が私の民主主義 アルバイト 塔嶌麦太(東京都 19)
私は安全保障関連法案の成立を止めるため、国会前の抗議行動に参加する。デモにも行く。友達にも呼びかける。こうやって投書も書く。できることは全てやる。「デモに行っても無駄」と多くの人は言うだろう。でも、私は法案成立を止められるからデモに行くのではない。止めなければならないからデモに行く。無駄かどうかは結果論だ。 私は間もなく選挙権を手にする。この国の主権者の一人として、また「不断の努力」によって自由と権利を保持していく誇り高き責務を負った立憲主義国家の一員して、この法案に反対し、この法案を止める。 声を上げるのは簡単だ。むしろ声を上げないことの方が私にとって難しい。なぜなら、私はこの国の自由と民主主義の当事者だからだ。戦争が起きてこの国が民主主義でなくなり、この国が自由を失ったとき、やはり私はその当事者だからだ。 何度でも言う。私は当事者の責任において、この法案を止める。それが私の民主主義だ。この投書を読んだあなたが、もしも声を上げてくれたならば、それは「私たち」の民主主義になる。 ………………………………………………………………………… みんながデモには行けなくても、誰かが(特に若い人たちが)行動しているというだけで、勇気づけられる人がどれほど多いかを、反戦歌や反戦投書の数々は教えてくれる。 あと、下のは「戦争にならないために暗唱しておいたほうがいい」ような声明文。
■京大有志の会「声明書」
戦争は、防衛を名目に始まる。 戦争は、兵器産業に富をもたらす。 戦争は、すぐに制御が効かなくなる。 戦争は、始めるよりも終えるほうが難しい。 戦争は、兵士だけでなく、老人や子どもにも災いをもたらす。 戦争は、人々の四肢だけでなく、心の中にも深い傷を負わせる。 精神は、操作の対象物ではない。 生命は、誰かの持ち駒ではない。 海は、基地に押しつぶされてはならない。 空は、戦闘機の爆音に消されてはならない。 血を流すことを貢献と考える普通の国よりは、 知を生み出すことを誇る特殊な国に生きたい。 学問は、戦争の武器ではない。 学問は、商売の道具ではない。 学問は、権力の下僕ではない。 生きる場所と考える自由を守り、創るために、 私たちはまず、思い上がった権力にくさびを打ちこまなくてはならない。 (自由と平和のための京大有志の会「声明書」)
………………………………………………………………………… 最後に秀逸な作品を一発。ツイッターなどで拡散され、「肉球新党『猫の生活が第一』」さんの「安倍ニモマケズ」だ。
安倍ニモマケズ
石破ニモマケズ 高村ニモ公明ヤ維新ニモマケヌ 平和ナココロヲモチ 慾ハナク 決シテ諦メズ イツモ官邸前デ抗議シテヰル
東ニ解釈改憲ガアレバ 行ッテ猫パンチ 西ニ集団的自衛権容認アレバ 行ッテ爪ヲトギ 南ニ米軍基地ガアレバ 行ッテココカラナクナレトイヒ 北ニ領土争ヒヤ紛争ガアレバ ツマラナイカラヤメロトイヒ
ヒデリノトキニモ集会ニイキ デモノトキハオロオロアルキ デキノボートヨバレ ホメラレモセズ クニモサレズ サウイフ猫ニ ワタシハナリタイ
以上は安保法制反対運動の中で生まれた表現のほんの一部だ。貧しい言葉しか持たない政府与党との対比。ちょっとザマミロな気分である。
(この回は現代書館編集部のミスで掲載が大変遅くなってしまいました。斎藤さん、森さん、並びに読者の皆様に深くお詫び申し上げます)
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