現代書館

WEBマガジン 16/06/05


web掲示板談話 斎藤美奈子・森達也 第五十回

件名:『FAKE』公開にあたって
投稿者:森達也

斎藤美奈子さま

 美奈子とのこのやりとりを始めてから、もうずいぶん経つけれど、どちらかといえば僕は、あまり間をおかずに返信してきたと思う。でも今回は遅れた。あいだに入っている菊地さんもヤキモキ。毎日のように催促のメールが来た。
遅れた理由は、もちろんサボっていたわけじゃない。新作映画『FAKE』の公開が近づいて、そのキャンペーン(要するにメディアからの取材)がかなり過密だったことに加え、文字を書くことがうまくできなくなったから。
単純に僕が不器用なだけとの可能性もあるけれど、人の身体というか精神は、とても単純にできていると実感している。今は完全に「映像仕様」になっている。以前なら一時間ほどで書けた短い原稿も、今は一日かかるのだから。
共同監督作品である『311』を別にすれば、今回は15年ぶりの新作。その経緯とかについては、もうかなりの新聞や雑誌やウェブメディアで話してしまっているから省略するけれど、まとめていくつもインタビューされたことで、今はかなり消耗しています。何かかっこつけているようで書きかたが難しいけれど、インタビューされるって本当に疲れる。だから今、自分がこれまでしつこく何度もインタビューしたり取材してきた人たちに対して、あらためて申し訳ないことをしてきたなと実感している。
今回は試写用のDVDを作らなかった。だからもちろん、その求めには応じていない。その理由を「流出を恐れている」と解釈している人が多いけれど、それは違う。
大きなスクリーンの観客席で観てほしいんだ。
映画はもちろん好きだけど、もっと正確に言えば、僕は映画館が好きなのだと思う。大きなスクリーンと下腹に響く大音量。そして周囲には同じようにスクリーンを見つめる大勢の人たち。自分自身の半生を思い起こしても、これまで映画館で、かなりのことを教わった。知った。気づくことができた。
だからやっぱり、その映画館に戻れたことが嬉しい。これからこの作品はどのように評価されるのかはもちろんわからないけれど、今はそれだけで十分に満足している。少し疲弊はしているけれど。

伊勢志摩サミットについてはどうでもいい。東京の過剰警備にはうんざりだったけれど。
オバマの広島でのスピーチはそれなりに良かったと思う。
なぜ多くのアメリカ人は広島・長崎への原爆投下を正当化できるのか。82年に公開された映画『アトミック・カフェ』を観れば、その理由がよくわかる。要するに彼らは核兵器を正確に理解していないのだ。
サミットについてはどうでもいいと書いたけれど、でもアベノミクスの失敗の責任転嫁の文脈である安倍首相のリーマンショック云々発言はひどい。「私はそんなこと言っていない」にもあきれた。慰安婦問題や南京虐殺などの報道が世界に恥を晒したと怒っている人たちは、なぜ今回も世界に恥を晒したと怒らないのだろう。

安田純平さんを救うために、政府は最善策を考えていると今は思いたい。何があっても国民の命を守り抜くと言ったのだから。

最近のNHKは観ている。もちろん番組によって違うけれど、現場は歯を食いしばって頑張っていると感じている。

今回は以上。短くてごめん。

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