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web掲示板談話 斎藤美奈子・森達也 第六十三回 |
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件名:沖縄モンダイ 投稿者:斎藤美奈子
森 達也さま
ロッテルダムに一週間も滞在したのに、「君の名は。」と戦後レジームの話に行っちゃう森達也(笑)。オランダに三度も行くほどの国際派(?)なんだから、もうちょっと面白い話はないのでしょうか。なんちゃって(笑)。 タイタニックのジョークは、はい、知っています。よく出来ているよね。ただ、「日本ではベストセラーが生まれやすい」という話は本当なのかな。「ハリー・ポッター」みたいな世界的ベストセラーだってあるわけじゃない? 私の場合はベストセラーを読むのも仕事のうちですので、たとえば村上春樹の新刊(「騎士団長殺し」。出る前から130万部!)も、出た日に読んじゃたりするわけですが、本に関していうと「みなさん飛び込んでいますよ」といわれて同調するとか、「日本は一色になりやすい」とかいうほど、みんな同じ本を読んでいるかなあ。だったらもっと本は売れてもいいんじゃないの? どれほどベストセラーになっても、基本、だーれも本なんか読んでいないじゃん、という印象が強いですね私は。
さて、私は先月、沖縄に行ってきました。主な目的は城(グスク)を見ることです(ごめんなさいね、観光で)。首里城、座喜味城、今帰仁城、勝連城、中城城と回って、そっち方面は大満足だったのですが、それはともかく……。 沖縄は20年ぶりくらいだったのだけど、あまりの変わりように驚きました。高層ビルの間をモノレールが縫って走る那覇の風景は、完全に未来都市。あやしげな雰囲気が残っていた国際通りは原宿か嵐山みたいなお土産観光ストリート。公設市場は中国人観光客でいっぱいで、本土資本のホテルが現在も建設ラッシュ。日本列島改造論か、ないしはバブル期の本土を連想させます。 辺野古の新基地建設にも高江のヘリポート建設にも私は心をいためておりますが(実際、政府のやり方はひどいし)、沖縄の全体像(とりわけ経済)についてちゃんと考えたことがあっただろうかと感じました。
帰ってきてから本を何冊か読んでわかったのは、沖縄はいまや(前からかもしれないけど)土木の島なんだね。たとえば海岸線は次々埋め立てられて、干潟の埋め立ても進み、すさまじい勢いで海の陸地化が進んでいる。リゾート地として人気の本島の海水浴場も、ほとんどは他所から砂をもってきた人工ピーチ。世界遺産に登録された「斎場御嶽(せーふぁーうたき)」という「聖地」周辺の森を切り裂く乱開発ぶりもすごくって、メマイがしそうだった。環境破壊は辺野古だけではないってことですね。 大型工事や海岸の埋め立てが進む理由のひとつは、沖縄の特異な産業構造なんだね。沖縄県の建設業が全産業に占める割合は1割弱で、全国平均の約2倍超。復帰後、沖縄の補助金行政で生き延びてきたわけで、巨額な補助金や振興策が流れる先の大半は公共事業。他の産業が育っていないので、雇用も土木建築業に偏る。 以前にくらべると、2000年代になって観光業が育ってきたとはいえ、大型ホテルをはじめ、儲けは東京の資本がもっていっちゃうという構造も見えるし、貧困や格差も本土以上で、一人当たりの県民所得が全国最低だったりするし。
本のレベルでいうと、沖縄戦や基地関係の本が、いまはたくさんあるでしょ。それらを読んでると、沖縄はいまも戦場だ、みたいな気持ちになってくる(いわば「暗い沖縄」ですね)。 ところが、行く前に観光ガイドブックを何冊か買ったら、あまりのノーテンキなリゾートアイランド扱いに、頭がクラクラした(いわば「明るい沖縄」ですね)。その「暗さ」と「明るさ」の乖離はすごくって、暗い方ばっかり見ている人と、明るい方ばっかり見ている人との間に、接点は何もないように思える。 でもさ、考えてみると「暗い╱明るい」というイメージ自体、本土の人間の勝手な思い込みの押しつけで、サイードのいうオリエンタリズムそのものかもしれない。 ちなみに、今日の沖縄を代表するお土産(スイーツ)は、「ちんすこう」でも「サーターアンダギー」でもなく「紅芋タルト」です。これはなかなかの名作ですね。 ちょっと短めですが、今日はこれで。
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