|
web掲示板談話 斎藤美奈子・森達也 第六十四回 |
|
件名:何だか萎える 投稿者:森 達也
斎藤美奈子さま
いま書くのなら、やはり森友学園について触れないわけにはゆかないけれど、でも事態はめまぐるしく動いている。 昨日16日、籠池理事長は参院予算委員会の現地調査で「安倍首相から昭恵夫人を通じて100万円の寄付を受けた」と発言したけれど、首相は即座にこれを否定して、国会で証人喚問が行われることが決定した。 また、なぜか代理人的な位置にいる菅野完によれば、籠池理事長は「最も悪い奴」の一人として、松井大阪府知事の名前を挙げているという。 そして国会ではもう一つ、稲田防衛相が森友学園関連であまりに稚拙な受け答えをし続けて(自衛隊の日報問題もここに重複して)、辞任の瀬戸際に追いつめられている。 同じタイミングで進行しているのは、豊洲移転をめぐる小池VS石原の新旧都知事対決。報道や社会の反応を見るかぎり、圧倒的に石原が劣勢だ。
同時進行で起きているこれら3つの状況に共通することは、今まで強い人気を誇っていた保守(右派)勢力のほころびが、次々と露わになっているということだ。そういう意味では、反安倍・反石原・リベラル的な思想を持っている人たちにとって、とても痛快な事態だろう。他人事じゃない。僕ももちろん興味津々ではある。でもだからこそ、自分に釘を刺したくなる。 現段階での予測だけど、最終的には昭恵夫人が独断で自分のへそくりから払いました、ということになるんじゃないかな。法には触れない。稲田防衛相は辞任するが、政権に大きなダメージはない。豊洲問題も不明瞭なままに幕引きとなる。石原元都知事のイメージが相当に落ちたことは確かだけど、でも彼にはもう実権はないのだから、これも保守にとって大きな痛手にはならない。 公人と私人の問題、森友学園的な思想がいつのまにか地下茎のようにはびこっている問題、「こんにゃく」という隠語が示す政治の腐敗の実態など、本来なら論議されなければならないイシューはたくさん出てきたのだけど、逆に言えばたくさん出すぎてしまって、一つひとつがかすんでしまった。 安倍夫妻が森友学園に(浅いレベルで)肩入れしていたことは確かだと思う(つまり国会での安倍首相の答弁は明らかに虚偽だけど、もう問題にはならないだろう)。教育勅語を暗唱し、軍歌を歌い、国旗に額づく立派な教育だ。これこそ大和民族の本懐。美しい日本の姿だ。だからこそ安倍晋三小学校なるネーミングが浮上した。そして学園側は、この肩入れを最大限に利用した。この問題の本質は、首相夫妻がそれほどに入れ込んでいるならば、と思いこんだ官僚たちの忖度だ。 でもこれは証明しづらい。
かつてNHK番組改変騒動が起きたとき、官房副長官の位置にいた安倍晋三は、NHKの放送総局長に「(番組をもしこのまま放送したら)只では済まないぞ。勘繰れ」との言葉を投げつけた(これはもう断言していいと思う)。勘ぐれ。凄い言葉だ。僕もかつてテレビでドキュメンタリー「放送禁止歌」を作ったとき、放送を禁止するシステムの原動力がほぼ忖度と同調圧力だったことを知って驚いたけれど、極めて日本的であり、だからこそ日本の組織の過ちの大きな要因になっている。 忖度とは何か。なぜ日本人はこの傾向が強いのか。なぜこの国の組織は(そしてこの国は)同じ過ちをくりかえすのか。もしもそんな議論に発展するのならとても意義あることだけど、まあ期待はできないだろうな。
話はちょっと横に逸れるけれど、今は籠池理事長の代理人的な位置にいる菅野完は、『日本会議の研究』の著者で、彼ら右派にとっては目障りな人物の筆頭のはずだ。そして石原と対峙する小池現都知事は、自民党時代には右派的なイデオロギーを隠していなかった。 何だかいろいろ捩じれている。右派とか左派とか保守とかリベラルとか、自分でも書きながら浅いなあとつくづく思う。 参院予算委員会の現地調査のニュース映像には、学園を応援する女性の金切り声がずっと響いていた。森友学園頑張れ! これはどっちなのだろう。彼女は何を応援しているのだろう。何と闘っているのだろう。……何だか萎える。思想のカテゴライズはどうでもいい。すべてがどうでもよくなってきた。自分が正しいと思うことを口にする。実践する。でもその結果として、世間からは黙殺され、罵倒され、いつもにこにこと笑っている。みんなにでくの坊と呼ばれ、褒められもせず、苦にもされず、国会前のデモ隊を見ながらおろおろ歩き、憲法改正のときは涙を流し、そういう人に僕はなりたい。
ここまでを書いたのは6時間前。その後に菅義偉官房長官が会見で、「昭恵夫人は個人としても寄付は行っていないことを確認した」と述べた。ならば「へそくり云々」の推測は外れたことになる。さらにその数時間後、籠池理事長が面会した複数の野党議員に100万円のうち10万円を返金し、問題が発覚した後の先月28日と今月8日に昭恵夫人から講演料に言及したメールも受け取っていると発言していたことが明らかになった。 うーむ。これからどうなるのだろう。まったく予測がつかなくなった。宮沢賢治を気取っている場合じゃないかも。
|
|
|
|
|
|