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WEBマガジン 17/05/30


web掲示板談話 斎藤美奈子・森達也 第六十七回

件名:共謀罪と加計学園問題
投稿者:斎藤美奈子

森 達也さま

 朝起きたら、NHKが「たいへんだ、たいへんだ、戦争だ」みたいな調子で騒いでいるので、何かと思えば北朝鮮のミサイル騒動。正直いって、またかよ、です。もはや毎週の定例行事みたいになってますからね。北朝鮮もたいがいですが、毎度毎度あきもせず、同じ調子で大騒ぎする日本のメディアにもウンザリです。
 それをちゃんと分析する貴君は、ほんとに偉いと思ってる(皮肉ではないです)。私はもう「うっせえなあ。そんなヒマがあるなら、ほかのニュースを報道しろよ。この安倍政権の提灯持ちが」とか思っちゃうからね。陰謀論に与する気はありませんけど、安倍政権は北朝鮮政府と裏で結託してて、国内ニュースの隠蔽のためにロケットだかミサイルだかを打ち上げてんじゃないかと思ってしまいます。

 そうこうしているうちに、とうとう共謀罪法案(テロ等準備罪を新設する組織犯罪処罰法改正案)が衆院を通過してしまいました(5月23日)。6月18日の国会会期末までに、参院もまんまと通過してしまうのだろうか。憂鬱です。
 しかし、あれだね。もともとその傾向が強かったとはいえ、官邸の鉄面皮ぶりは度を超してますね。とりわけここへきて、存在感を発揮しているというか、妖怪ぶりに拍車をかけているのが、菅義偉官房長官です。何が起きても「まったく問題ない」「批判には当たらない」「承知していない」。ノープロブレム菅と呼んでる人もいるほどで。

 とりわけ驚き呆れたのは、国連特別報告者ジョセフ・ケナタッチ氏が共謀罪法案について「プライバシーや表現の自由を制約するおそれがある」「法案の成立を急いでいるため、十分に公の議論がされておらず、人権に有害な影響を及ぼす危険性がある」などの懸念を示した日本政府に対する書簡を、官房長官が一蹴したことだった。
 「プライバシーの権利や表現の自由などを不当に制約する恣意的運用がなされるということはまったく当たらない」といつもの調子で切り捨て「不適切なものであり、強く抗議を行っている」ときたもんだ。その上「(ケナタッチ氏は)個人の資格で活動しており、その主張は必ずしも国連の総意を反映するものではない」とまでいう。
 共謀罪法案は国連条約(国際組織犯罪防止条約)の締結に必要な法律だって力説してきたくせに、当の国連関係者の進言は「不適切」って、何をいってるんだろう。あんたは リットン調査団の報告書を蹴とばして国際連盟を脱退した松岡外相かよ、って感じです。
 
 加えて、加計学園問題ね。学校法人「加計学園」の獣医学部新設をめぐって「総理のご意向」「官邸の最高レベルが言っている」などと書かれた文科省の内部文書が出てきたという例の件です。官房長官は「怪文書みたいな文書」と切り捨てたわけですが(5月17日)、『週刊文春』と朝日新聞のスクープ報道を受ける形で、25日、文科省の前川喜平前事務次官が、資料は「確実に存在した」「あったものをなかったことにはできない」などと証言。よほど腹に据えかねたのでしょう。「ノープロブレム菅」がめずらしくキレる姿を私たちは見ることになった。
 天下りあっせん問題で前川さんが引責辞任した件ついては「地位に連綿と(恋々と?)しがみついていた」。貧困調査のために出会い系バーに行ったという説明には「教育行政の最高責任者として到底考えられない」。

 共謀罪法案と加計学園問題はバラバラに見えるけど、私はひとつづきの案件に思えます。政府に不都合な文書は破棄するかないと強弁する。文書があればあったで「怪文書」と切り捨てる。政府に不都合な発言は黙殺する。それでも発言をやめない人には「人格に問題あり」のレッテルを貼って社会的な生命の抹殺を図る。
 出会い系バーの一件はもともと読売新聞が記事にしたもので、『週刊新潮』は官邸がリークしたのではないかという疑惑を報じてたよね。こんな個人的な(スキャンダルともいえないほどの)行動が記事になったっていうことは、誰かが前川氏のプライベートを内偵し、密告したってことでしょう? 誰かとは誰か。(官邸の命を受けた)公安なのか、(官邸とツーカーの)読売新聞の記者なのか。いずれにしても、このやり方は、権力に逆らうとこうなるぞという一種の「脅し」「見せしめ」であり、監視と密告と疑心暗鬼にまみれた共謀罪下の社会を先取りしているように見える。
 あの手この手で言論の封殺を図る為政者、官邸への忖度に余念のない官僚組織、そして大本営発表に加担するメディア(今回の件で言えば読売新聞やNHK)。こんなのが日常になるかと思うと、たまんない。

 余談ですけど、前川さんが「出会い系バーに行ったのは事実。ドキュメント番組で女性の貧困について扱った番組を見て、実際に話を聞いてみたいと思った」という説明をどう思います? こういうときこそ「まったく問題はない」「批判には当たらない」といやあいいのに、菅官房長官は「さすがに強い違和感を覚えた」「常識的に、教育行政の最高責任者がそうした店に出入りして、(女性に)小遣いを渡すようなことは到底考えられない」と発言した。で、同様の反応を示した人も多かった。私はほんとに憤慨したよ。
 森君にはわかってもらえると思うけど、貧困調査のために風俗に行く、というのは前川さんの人格とは関係なく、十分あり得ることじゃない? 女子の貧困について一度でも考えたことがあれば、まして教育行政の当事者だったら、そのくらいのことはしてもおかしくないでしょう。お小遣いというか報酬をわたすのだって、当たり前じゃんか。彼女らを一定時間拘束して、プライベートな話を聞かせてもらうんだから。
 それを「嘘」「風俗で遊びたかっただけ」と決めつけるのは、自分の品性の下劣さを暴露しているのと同じ。あなたはそうかもしれないが、そうじゃない人もいるんだよ、っていう話です。「男はみんなスケベで、女を欲望の対象としてしか見ていない」という発想は、「女は男に欲望の対象にされたがっている」というのが女性差別であるのと同じくらい、ひどい男性差別だと思うよ。男性は「男のステレオタイプ化」という男性差別に、もっと敏感になったほうがいいと思いますね。

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