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WEBマガジン 24/09/30


web掲示板談話 斎藤美奈子・森達也 第155回

件名:政治向きの雑談
投稿者:斎藤美奈子

森 達也さま

 9月も本日で終わり。久しぶりの「床屋談義」です。
 立憲民主党の代表選(23日)に自民党の総裁選(27日)。あとはパワハラ疑惑(および公益通報者保護法違反疑惑)の兵庫県・斎藤元彦知事の進退問題。時に常軌を逸したメディアの騒ぎっぷりも含めて、なんとなくザワザワした9月でした。
 立憲の代表は野田佳彦。自民党の総裁は石破茂。斎藤知事は辞職でも議会の解散でもなく、自動失職を待っての再出馬。3つの結果のうち、もっともムカついたのは立憲ですね。
 下は9月4日の東京新聞朝刊に書いた「本音のコラム」です。

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「もし野だ」の憂鬱
 夏目漱石の『坊っちゃん』に「野だいこ」略して「野だ」という人物がいる。権力者たる教頭・赤シャツの太鼓持ちに徹する嫌な人物だ。
 野田佳彦元首相が立憲民主党の代表選に立つと聞き、連想したのがこの野だだ。野田氏首相在任中(2011年8月〜12年12月)の実績は厚顔無恥そのものだった。
 【消費増税】自民公明との3党合意で5%から10%への消費増税を決定した(12年3月)。
 【原発再稼働】原発事故の収束宣言を早々に出し(11年12月)、大飯原発の再稼働を決定(12年6月)。再稼働撤回を求める大規模デモが官邸前に集結するも彼は「大きな音だね」と反応、人々の失望と反感を買った。
 【党内分裂】かような政策の結果、内閣支持率は急落し続け、70人以上の離党者まで出した。
 【自爆テロ解散】当時の自民党・安倍晋三総裁の挑発に乗る形で衆院を解散(12年11月)。12月の総選挙に惨敗して政権を明け渡し、安倍長期政権への道を開いた。
 旧民主党政権を潰したその人が不遜にも再度政権交代を目指すという。しかも維新や国民民主と組んで。かつて希望の党にも秋波を送って断られた野田氏。「もし野だ」が実現したら野党の存在意義は失われ、立民の支持者やシンパは離れ、次の総選挙でまた自爆しよう。ここまで人心が読めないのは致命的。信じられない。(2024.9.4 東京新聞)

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 「もし野だ」が現実になって、ほんとうに憂鬱だ。
  森君は先日「たとえ代表が野田佳彦であっても政権交代はしたほうがよい」と言っていたけど(それもひとつの見識だとは思いますけど)、維新や国民民主と共闘しての政権交代が実現しても疑似自民党がもうひとつ増えるだけで無意味だし、そもそも野田だと政権交代は無理なわけよ。立憲の支持者やシンパは立憲から気持ちが離れるだろうし、仮に自民党が過半数割れしても(しないと思うが)、維新は立憲ではなく自民と手を組むでしょうよ、おそらく。
 なので野田だと選挙はたぶんボロ負けだよ。ボロ負けしろ、とむしろ私は思ってる。野田は旧民主党政権をつぶした張本人だし、当時の総括さえしていない。反省も総括もせず、しれっと出てきて、なーにが政権交代じゃ、ですよ。政権交代が目的化していて、その先の政治的ビジョンは安保法制合憲、改憲賛成、原発再稼働可で、自民とたいして変わらないじゃない? そういう人を代表に選んだ立憲もどうかしている。裏切ってくれるよねえ。

 では自民党総裁選はどうだったか。
 リベラル左派陣営の大方の気分としては「ああ(極右の)高市早苗や(中身のない)小泉進次郎でなくてよかった」ではないだろうか。究極の消極的選択としては石破茂がマシ、という。
 この結果を見て、だから自民党はここまで延命してきたのだな、と思いましたね。立憲はわざわざ負ける選択をする。自民はなんだかんだいっても、最後は勝つ選択をする。党内野党で議員からは疎まれてきた(と報道されている)石破が総理総裁になれば、ひとまず疑似的な政権交代といえるじゃない? 期待値は上がる分、そこそこ選挙には勝つよ。

 と昨日までは思っていたのだが、党内野党だったはずの人も総裁になった途端、掌を返して早期解散に打って出るとかいっている。以下は朝日新聞の記事。

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衆院選「10月15日公示・27日投開票」 石破氏、方針固める

自民党の石破茂新総裁は10月1日に召集される臨時国会で衆院解散・総選挙に踏み切り、「10月15日公示・27日投開票」とする方針を固めた。1日の首相指名後、正式表明する。自民党内に早期解散を求める声が強くある一方、野党は国会論戦を求めており、反発が予想される。

石破氏は29日、民放の番組で解散について「早ければ早い方がいい。でも、ご判断いただく材料は整えたい」と言及。NHKの番組でも、10月中の投開票があるかを問われ「いろんな可能性は否定しない」と答えた。
一方、石破氏は総裁選の中で「国民に判断していただける材料を提供するのが政府の責任であり、新しい首相の責任だ。本当のやりとりは予算委員会だと思う」と、議論の必要性を強調。その機会を確保するため、党首討論の場を設ける案などが浮上している。
(略)
 自民党内には、新政権が野党の追及を受けることを懸念し、早期解散への期待が当初からあった。こうした声を受け、石破氏も早いタイミングの解散に傾いた。
 自民党にとって、派閥の裏金問題からの信頼回復が問われる次期衆院選は、処分を受けた議員の公認も焦点だ。だが石破氏は、就任会見で「説明責任は、公認権者たる私もきちんと果たしていきたい」と語るにとどめている。(2024.9.30 朝日新聞)

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 これって総裁選中に小泉進次郎が唱えていた最短コースと同じじゃない?
 この感じだと裏金議員もきっと公認するだろうし、防災省の創設が一番の公約だったはずなのに、能登の視察ひとつせず、予算委員会もスルーして、補正予算案も成立させずに選挙に突入って何なんだ。
 組閣を見ても、ガッカリ感が強いし(三原じゅん子がこども政策担当相?)、せめて公約にあげていた選択的夫婦別姓法案は提出しろよーと思っていたけど、期待薄ですね。
 極右勢力(統一教会や日本会議)の影響を払拭できない自民党。総裁選で高市早苗がかなり票を集めたのを見ても、極右の力はこの党の隅々まで行き渡っているのだと思わざるを得ません。
 石破と野田がコンビを組めば(コンビだよもう)、改憲も射程距離に入ってくるだろう。

 最後に兵庫県知事問題。下は斎藤知事が進退を決める前の東京新聞のコラムです。

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民主主義のコスト
 19日に全会一致で不信任決議が可決され、進退が注目される兵庫県の斎藤元彦知事。辞職か失職か県議会解散か。責任の取り方としても百条委員会続行の点からも、望ましいのはそりゃ辞職だ。ただ解散に意味がないわけでもない。問題がこじれた原因の一端は議会側にもあるからだ。
 内部告発で知事のパワハラ疑惑が発覚したのが3月。知事が疑惑を否定し、立憲民主党議員などが所属する「ひょうご県民連合」が第三者委員会の設置を申し入れたのが5月。6月には県民連合と自民が百条委の設置を要求し、共産と無所属が賛成、維新と公明は反対した。8月末に知事への尋問が始まり、各会派辞職要求で一致。さすがの維新も辞職要求に至ったが、告発文書を地元国会議員が怪文書と呼ぶなど維新はずっと事実の解明に後ろ向きだった。
 兵庫県議会86人の内訳は、自民37、維新21、公明13、県民連合9、共産2、無所属4。昨年の県議選で4人から21人に躍進した維新は議席を死守したかろう。だが知事に加担して疑惑の追及を渋ったのは誰なのか。
 知事選には18億円、県議選なら16億円かかるというけど、選挙費用は民主主義の根幹に関わるコストで、税金の無駄遣いではない。民主主義のメリットはやり直しがきくことだ。選挙上等。知事であれ県議であれ、有権者は真剣に選び直してほしい。(2024.9.25 東京新聞)

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 斎藤知事は報復人事をやるくらいの人だから、報復解散もあるのではないかとじつは思っていた。維新議員が激減するなら、それもよいではないかと半ば期待もしてたのだけど、結果はまさかの失職→知事選再出馬。あれだけのことをやっといて、まさか彼が再選されるとは思えないけど、有権者の気持ちは計り知れませんからね。
 「民主主義のメリットはやり直しがきくことだ」という気持ちは不変ですが、なかなかこちらの思い通りにはいきません。まあ、いつものことですが。

2024.9.30 斎藤美奈子

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