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WEBマガジン 26/2/10


web掲示板談話 斎藤美奈子・森達也 第171回

件名:野党が消えた日
投稿者:斎藤美奈子

森 達也さま

 選挙戦が終わるまで、1月末の〆切りを延ばしてもらっていました。
 で、2月8日の衆院選。大方の予想どおり、自民党の大勝に終わりました。勝つとは思っていたけど、予想以上でしたね。結党以来最多の316議席(公示前は198議席)という脅威の勝ち方。
 その一方で、高市自民党に対抗すべく、立憲民主党と公明党が合併した中道改革連合は167から49まで議席を減らしました。うち28議席は旧公明(比例単独で全員当選)で、公示前の21議席を上回る結果になるも、しかし旧立憲は比例名簿の上位を公明にのきなみ献上した結果、146から21まで議席を減らした。単純計算で85%減です。
 野田佳彦こそまんまと当選したものの、立憲を立ち上げた枝野幸男をはじめとして、党の屋台骨を支えてきた岡田克也も安住淳も小沢一郎も落選。菅直人の引退も含めれば、これは1998年に結党された旧民主党の系譜の、事実上の消滅といっていいのではないだろうか。

 一党が瓦解するだけなら別にいいけど、これはかなり深刻な事態だと思う。だって曲がりなりにも30年近く続いてきたリベラル系の野党第1党が消滅したんですからね。
 新興のチーム未来の立ち位置はよくわからないけど、国民民主や参政党が与党の補完勢力にすぎないことを考えると、中道の49議席に、共産3議席(5議席減)、れいわ1議席(7議席減)を加えてもわずか53議席。完敗した中道の中には与党批判に二の足を踏む(あるいは政権与党帰を望んでいる?)旧公明議員もいるだろうと想像すると、旧公明を除いたリベラル系の反自民、反高市派はわずか25議席です。この数字は、衆院から対抗勢力が消え、国会での論戦が成立せず、独裁体制が待っていることを意味している。ありていにいえば、ファシズム国家への道でしょう。
 にしても、なぜ、こんなことになったのか。

 ひとつには、すでにさんざん指摘されていることだけど、国政選挙がいよいよ推し活選挙、ファンダム(熱心なファン集団のこと)選挙になったということでしょう。支持者自身が「サナ活」とか言ってるわけで、アイドルを応援するのと何も変わらない。べつだんこれは今にはじまったことでもなく、トランプが再選された2024年の大統領選も、斎藤元彦が再選された兵庫県知事選も、25年参院選での参政党の躍進もファンダム選挙だった。
 ファンダム選挙がいわゆるポピュリズム政治とニュアンスを異にするのは、政策とは無関係な投票行動であることです。試しに「ポピュリズムで検索エンジンにかけると、AIが次のような答えを返してきます。
「ポピュリズム(大衆迎合主義)は、特権的なエリートや既存の政治体制を批判し、一般大衆(庶民)の不満や要求を代弁して直接政治に反映させようとする政治姿勢や運動です。大衆の感情に訴えかける分かりやすい主張で支持を集める一方、対立を煽り、分断や非現実的な政策を招く危険性も指摘されます」
 ポピュリズムには、まだ候補者や党の主張や政策がからんでいるけど、ファンダム政治にそれはない。100%印象、100%雰囲気、100%感情。「推し」の感覚は、理屈では説明できない恋愛や宗教に近いので、「あの人はダメだよ」「やめたほうがいいよ」と説得されても、動じないどころか、かえってファン心理が刺激されたりする。

 「高市早苗が総理大臣でいいかどうかを問う選挙」だとみずから宣言した高市は、初手からファンダム選挙に狙いを定めていたのだと思う。だから具体的な政策は語らず、「国論を二分する政策」の中身も明かさず、「日曜討論」もドタキャンし、論争からは逃げ続けた。
 彼女の最大の属性は「女性首相」であることだ。朝日新聞電子版2月8日の記事によれば、広島市内の有権者への取材で、高市内閣を支持すると答えた200人のうち、一言目に返ってきた答えでもっとも多かったのは「女性」で34人(17%)。同様に多かったのは「きっぱり」「はっきり」といった明確さを表す言葉で、34人(17%)。「やってくれそう」などの期待感を示す言葉は、22人(11%)。
https://digital.asahi.com/articles/ASV281SWQV28PITB002M.html


 初の女性首相という属性が圧倒的にプラスに作用したわけだよね。
 50代向けの女性誌「eclat(エクラ)」2月3月合併号(集英社)が、「スペシャル寄稿 時代の動き≠変える人 高市早苗、そのエナジーの正体」と題し、3人の女性による推し活記事を載せていて(政治色が一切ない雑誌ので私は仰天したのだが)、見出しだけを拾うと、こんな感じ。
 「猛烈さと愛らしさが民の心をつかむ引力に!」(美容ジャーナリスト)、「装いが語る、私のまま≠ナいいという覚悟」(服飾史家)、「本物の笑顔≠ノ見る戦略的コミュニケーション力」(コミュニケーション戦力研究家)
 そして記事の前文は「25年10月、歴史的な瞬間が訪れた。新たな時代の扉を開き、前へ前へと歩み続ける姿は、まさに躍動そのもの。高市早苗という人物を、3つの視点から照らし、彼女から立ちのぼる熱≠フもとを紐解く」だ。
 この記事のスタンスは先の広島市での取材結果と見事に一致しています。

 一方の中道は、野田佳彦と斎藤鉄夫で戦おうとした。勘が悪いとしかいいようがないです。「おっさんコンビ」という属性だけでも負けている上、この2人は使い古しの「見飽きた顔」で、権力に固執している守旧派コンビにしか見えない。
 その上、党の方針を大きく変えて「安保法制合憲」「原発再稼働容認」「辺野古容認」では、従来の(考えて投票する)立憲支持者まで失うのは当たり前でしょう。
 それでも私は迂闊も、一瞬期待したんだよ。当面の敵は高市自民党なんだから、やっぱ大きな塊があったほうがいいかもね、とか。安保、原発、辺野古についてはアレでも、それ以外は自民党よりずっとマシだし、とか。公明と組めば組織票が乗るかもしれない、とか。
 なので選挙中は中道批判も封印していたんだけど、今思えば一瞬でも期待した私がバカだった。立憲がいずれ有権者から見放されることは、24年9月に野田が立民の代表に就任した時点で予想されていたことだったのだ。10月に石破政権が誕生し、その後の衆院選と25年の参院選では、野党が勝ったが、それは石破の不人気と、裏金&旧統一教会問題による敵失で、野田の功績でもなんでもない。かつて民主党政権を自爆テロ解散で潰した野田は、今度は党まで潰したわけだ。

 もうひとつ、高市人気の秘密は反中姿勢をむき出しにし、排外主義を排除しないことでしょう。
 台湾有事をめぐる首相の国会答弁(戦艦を使って、武力の行使も伴うものであれば、これはどう考えても存立危機事態になりうるケースだ)で、日中関係が冷え込むなか、首相の対中姿勢について聞いた朝日新聞社の全国電話世論調査(12月20、21日実施)では、「評価する」が55%、「評価しない」は30%だった。過半数が台湾有事発言を評価している! なんだそれ。
 一方で、日中関係悪化による経済への影響を「心配している」は「大いに」と「ある程度」を合わせて53%。経済への影響を「心配している」と答えた人でも、40%が首相の対中姿勢を「評価する」と答えたているのがいぶかしい。でも、この矛盾に満ちたこの態度に、政策より態度、理屈より情緒のファンダム政治の実態が現れている気がします。「高市さんがきっぱり言ってくれた」「すーっとしました」で「評価」しちゃうわけだよな。
https://digital.asahi.com/articles/ASTDS315YTDSUZPS001M.html


 選挙に話を戻すと、こうして中道が壊滅的な敗北を喫した結果、どうなるかというと……
 まずスパイ防止法が通るよね。泣いてもあがいても、これは通る。時期はともかく絶対通る。次の国会で通る可能性すらある。そして市民は自由な言論を制限され、メディアも沈黙し、昭和戦前期のような息苦しい世の中になるわけです、ハハハ。
 改憲(9条に自衛隊を明記する)にも当然手を付けるよね。9日の記者会見で、首相は「この国の未来をしっかりと見据えながら、憲法改正に向けた挑戦も進めてまいります」と語った。衆院は改憲派が3分の2を超えている。安倍晋三元首相でさえ成し遂げられず、今まではリップサービスに近かった改憲が、いよいよ現実になる……。
 高市は前例とか習慣とかを考慮する人ではないので、やるでしょう、どちらも。
 高市は調整能力がないから、いずれ失脚する、という人もますけど、舐めないほうがいいと思いますね。ヒトラーだって最初は舐められてたんだからね。

2026.2.10  斎藤美奈子

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