現代書館

WEBマガジン 10/02/22


第十一回 たこ焼きは好きだけど・・・

美奈子さま

> 「ここに書いちゃうと誰かに先を越されてしまう」心配はあまりないと 思うな。そんなコストパフォーマンスの悪い事業に手を出す人は、おそらくいないと思うから(笑)。

悔しいけれど少し調べて納得。確かにタコの養殖って聞いたことがない。確かに相当に難しいようだ。だから日本国内で流通するタコの多くは、以前はモロッコ産が多かったけれど、乱獲がたたって(ほとんどは日本に輸出される)今はほとんどがアフリカ北西部のモーリタニア産。日本近海にはもうほとんどいないらしい。
でも最近は、モーリタニアのタコも、やはり乱獲がたたって(もちろん最大消費国は日本)激減しているとのこと。
賢い生きものなのにこれほどに乱獲してよいのかと怒りが湧いてきた。船をチャーターしてタコ漁の船に体当たりをしようかとも考えたけれど、それではSea Shepherdと同じことになってしまう。
・・・と半分ちゃかして書いたけれど、Sea Shepherdの姿勢はともかくとして、僕は現状の捕鯨やイルカ漁を完全に肯定するつもりはない。特に調査捕鯨の実態はひどい。昨年、グリーンピース・ジャパンは、調査捕鯨船の乗組員たちが調査目的で捕獲した鯨肉を寄港後に自宅に送っているとして東京地検に業務上横領容疑で刑事告発したけれど、乗組員たちは結局のところ不起訴処分になり、グリーンピースの二人のメンバーは窃盗容疑などで逮捕された。
グリーンピースのメンバーが逮捕されることは間違っていない。目的はどうあれ、彼らがやったことは窃盗だ。でも調査捕鯨船の乗組員たちがやったことだって、間違いなく業務上横領だ。国際捕鯨取締条約第8条第2項は、調査捕鯨において捕獲した鯨体は、調査した後にできる限り加工して利用し、その取得金は政府の発給した指令書に従って処分されなければならないと定めている。乗組員が勝手に家に送って食べることは許されない。不起訴はありえない。俗情(世相の圧倒的多数はグリーンピースに対して批判的だった。たぶん今も)に結託したきわめてアンフェアな判決だと思う。
それにそもそも、調査捕鯨の意味がよくわからない。生態系調査が主目的ということらしいのだけど、生態系を調査することと捕獲(というか殺戮)の関連がわからない。トンボの生態系を調査しますと言いながら、片っ端からトンボ(のある種)を捕獲して標本にしていたら、それは違うだろうと言われて当たり前だ。
鯨やイルカを食べるなと欧米社会に言われたとき、じゃあおまえらも牛や豚を食べるなと言う人が多いけれど、これも不毛な論戦。もしも目の前でこんな言い合いをしている二人がいたら、「二人とも今すぐ家に帰って飼っているイヌやネコを調理して食べなさい」と僕は言いたくなる。
人間は身勝手だ。生きものすべてに対しての公正さなど実現できるはずがない。鯨を食べるなと言いながら牛や豚をたべることに確かに整合性はないけれど、鯨や牛や豚を食べながらイヌやネコを食べないことにも整合性はない。どっちにせよアンフェアなのだ。
中国や韓国ではイヌを食べる。イヌ好きな僕としては、できることならあまり食べてはほしくない。でも「牛や豚は食べるのになぜイヌはダメなのだ」と彼らに言われたら、理屈では言い返せない。自分はイヌが好きなんだというしかない。イヌに愛着があるからと言うしかない。鯨やイルカを食べるなという欧米の感覚も同じこと。
ただもちろん、鯨やイルカを食べるなとの主張する多くの人が、鯨やイルカにリアルな愛着があるとは思えない。とても賢いとか情愛豊だからとの情報を、額面どおり受け取っている人が多いはずだ(実際に賢いし情愛豊なのだろうとは思うけれど)。
整理すれば、「この動物を食べるな」の根拠はエゴイズム。まずはそこを自覚したほうがいい。でもこのエゴイズムは絶対に否定できない。矛盾を解消はできない。だからその矛盾を自覚しながら、食べるかどうかを決めればいい。鯨肉にしか含まれない日本人にとっての必須アミノ酸が存在しているということならともかく、食べなくても困らないものならば、周囲の人たちの気持ちをもう少し尊重してもいいのでは、と僕は思う。
それにやっぱり何よりも言いたい。賢いタコを食べるなって。

> と、思わずマジレスしてしまいましたが、森くんは何か、生き物、飼ってます?
>  私はいちおう昆虫協会の会員ではありますが、特に「虫愛する姫」ってわけではなく、一時期、熱心に飼っていたのは爬虫類です。ヘビもトカゲもカメも、たくさん飼った(自宅でも事務所でも)。

今はいないけれど、少し前まではイヌが四匹にネコが二匹いた時代があります。散歩のときは近所からブレーメンの音楽隊って言われていた。
爬虫類や両棲類は、子どもの頃から眷族だったのではと思いたくなるくらいに大好き。イモリにヤモリ、ヘビにカエル。ほとんど飼った。小学生のときにカナヘビを二十匹ほど捕まえてミカン箱に入れて自分の部屋に置いておいたら、母親が掃除のときに蓋を開けてショックで床に落として大パニックになったことがあります(帰宅したら寝込んでいた)。

愛玩するにしても食べるにしても使役するにしても保護するにしても、とにかく生きものに対して、人はエゴイスティックな存在だ。そうならざるを得ないのだと思う。まっとうな食物連鎖を逸脱しながらヒエラルキーの頂点にきてしまったのだから、特異であることは当たり前。これを自覚しないと。自覚してから考えないと。年末に魚市場で大量のスッポンが売られていた。もちろん生きたまま。明らかに苦しそうだ。見ただけで何とかしたくなる。ひどいじゃないかとお店の人に食ってかかりたくなる。でもスッポンのその横には、やっぱり生きたままのドジョウが大量に売られていた。そっちはまあいいか、と思う。具体的に「まあいいか」と思ったわけじゃないけれど、ドジョウに対してはあまり感情が揺さぶられてはいない。身勝手この上ない。そんな自分を僕は否定しない。でも肯定もしない。身勝手であることを認める。独善的な正義は不要。まずはそこから。

・・・・それにしてもタコはかわいそう。何とかしてやりたい。タコ焼きは好物だけど。
 
ちょっと閑話休題。

1月末、父親が事故で栃木の獨協医科大学病院に緊急入院しました。救命救急。頸椎損傷で現状はほぼ全身麻痺。今のところまだ自発呼吸もできず人工呼吸器を取り付けています。
見通しはまだまったくわからない。病院にすがるしかない。
これについてはこのWEB対談で書くべきことかどうか迷ったけれど、これを書かないままに「なんたらかんたら(笑)」などと文章を紡ぐ自分が嫌なのと(前にも書いたけれど、(笑)という表記は好きじゃないから、そもそも書かないだろうけれど)、頸椎損傷についてはほとんど知識がなかったので、これを読んだ医療関係者や頸椎損傷の体験者などから、患者へのケアや今後の受け入れ先を探すうえで、何らかのアドバイスや情報などをもらえれば、との下心もあります。





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