現代書館

WEBマガジン 10/06/09


第十五回 「五月末決着」から動物三大噺

斎藤美奈子

森 達也 様


 普天間基地飛行場の移設先について、5月28日に発表された日米合意文書には「辺野古周辺」と明記され、署名を拒否した福島みずほ大臣が罷免され、社民党は連立政権を離脱しました。
 「五月末決着」がこんな形になろうとは、半ば予測はしていたにせよ、がっかりです。希望的観測も込みで、鳩山政権はもう少し「使える」のではないかと思っていた自分にもがっかりです。
 とは申せ、普天間問題で、鳩山内閣(というか鳩山首相)が果たした「プラスの役割」は、沖縄以外では今までほとんど気にとめられていなかった普天間問題、ひいては基地問題が、全国の人々の耳目を集めることになったことでしょう。あのまま自民党政権が続いていたら、普天間も一部の「地域問題」として捨ておかれはずですから、首相の発言が右往左往し、結果的に沖縄の怒りを受け止める人が増えた。
 沖縄の民意を思えば、もはや辺野古沖にすんなり飛行場を建設するのは事実上不可能で、日米合意文書はあくまで「暫定決着」。2014年とされている海兵隊移駐期限に向けて、ほんとの交渉はこれからはじまるのだ、という人もいます。
 問題をこじらせた結果、自民党政権でさえできなかった「強制執行」を民主党政権がやることにならないとも限りませんが、それはさすがにないでしょう。 
 いずれにしても、ここまで求心力が落ちた以上、鳩山首相は辞任せざるをえないでしょうね。辞任しなくても、どのみち参院選で負けたら、辞任は免れないでしょうが、しかし、マスメディアでこれでまた色めきだって、7月の参院選をにらんだ政局報道に走っているのがイヤ。
 森くんお得意の(?)政治的ニヒリズムに、私も陥りそうだわ。



 吉田さんがご提案くださった新聞問題について。
 私がいちばん熱心に新聞を読んでいたのは小学校高学年から、中学・高校時代です。
 学校から帰ってきて、おやつを食べながら新聞を読むのが何よりの楽しみという変な子でした。
 「今日はまだ新聞を読んでなかった」と思うと、嬉しかったもんね。
(そういう子だったから、こういう仕事に就いたのだろうと、いま振り返れば思いますが)うちはずっと朝日新聞だったのですが、全国紙は地方都市では夕刊がありませんので、それがかえって「1日に一度のお楽しみ」としてはちょうどよいペースと記事の分量だったのかもしれません。

 自分がメディアの仕事にかかわるようになってからは、新聞を読むのは半ば義務と化し、そうなると読むのは面倒臭くなり、最近ではネット上の記事検索ですますほうが多く、新聞はなくても全然平気になってしまった。というか、新聞って、忙しくて2・3日読まないでいると、たまる一方でしょ。
 そうなると、まったく読む気がしなくなります。新聞の購読者が減っているのはやむを得ないでしょう。
 私でさえ、ここまで新聞離れを起こしているのですから、若い人においてをや。
 私はなにより、紙がどしどし溜まっていくのが嫌。日経がPDFでの配信をはじめましたけど、他紙もそうしてくれないかと思う。三大紙や地方紙がそれができにくいのは、販売店制度のせいだと思いますが、長い目でみれば、やはり紙の新聞は廃れていく運命でしょうね。
 とはいえ、吉田さんがおっしゃる「ビジネスモデル」の問題に移ると、媒体が紙から電子に移っても、大新聞が情報を独占するという今の状態は、(少なくともここ当分は)維持されるのではないかと思います。
 大新聞が右へならえの報道に終始していることや、論調が偏っていたり、広告主への批判ができない点などに私は年中腹をたてていますけど、しかし、100年かけて培ってきたノウハウにも侮れないものがある。
 裏が取れない情報は載せない、校正や校閲に多大なコストをかけるなどの危機管理能力の高さが、一定の信頼につながっているのは、残念ながら事実でしょう。その点は出版社についても同様です。
 もしもいわゆる「大マスコミ」が消え、競争原理に基づいたビジネス優先のメディアや、市民メディアばかりになったら、それはそれで不安です。オルタナティブ・メディアが増えるのは歓迎ですし、そうなるだろうとは思いますが、今のところ新聞は「保守的」でいいよ、という感じです。
 iPadの上陸で大騒ぎしている人たちを見ると(ものすごく多い)、少し落ち着けといいたくなります。



 森くんの新著、『首都圏生きもの記』読みました。すごいね。なんでも書けちゃうんだね。
 『いのちの食べかた』という著書もある森君にうかがいたいのは、宮崎の口蹄疫についてです。
 畜産農家と牛は非常に気の毒でしたが、この件で知ったのは、ブランド牛ってそんなにもシステマティックに生産されているのか、ということでした。なんというか、工業製品みたいな感じ。
 クジラ(シーシェパード事件)、クロマグロ(ワシントン条約)ときて、こんどはブランド牛の受難。三題噺のようですが、クジラもマグロもブランド牛も「趣味の食材」で、そんなものはなくても動物性タンパク源は確保できるんだよな、と改めて思ったりします。
 とりとめなくて、ごめんなさい。

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