|
web掲示板談話 斎藤美奈子・森達也 第十七回 |
|
件名 :みんなで渡れば恐くない 投稿者:斎藤美奈子 2013/12/08
今書かないでいつ書くの? な状況かと思いますので、書き込みます。 本日、12月8日、真珠湾攻撃から72年目の記念日です。1941年は治安維持法が全面改正された年でもあります。改正治安維持法の成立が3月で、真珠湾が12月。その計算でいくと、日本は来年の夏頃には戦争に突入しているでしょう。 さて一昨日(12月6日)、参院での強行採決によって特定秘密保護法が可決成立しました。いまふと思ったのですが、治安維持法が制定されたのは 1925年。関東大震災(1923年)から2年目なんですよね。この符合は何なのでしょう! 備忘録として書いておきますと、特定秘密保護法案が閣議決定されたのは10月25日、衆院で審議入りしたのは11月7日でした。11月26日に は強行採決によって衆院を通過し、12月5日には参院特別委で可決、翌日深夜には参院での強行採決でした。特別委と本会議をあわせ、4回全部が強行採決だったのは異例の事態といえましょう。
この1カ月間、ほんとうに胃が痛くなるような思いでした。はらわたが煮えくりかえる、とはこういうことを言うんでしょーね。 この法案のひどさについては、すでにあちこちで報道され、また多くの論者が述べていることですので繰り返しません。1年前の衆院選で安倍自民党 を大勝させ、なおかつ7月の参院選で「ねじれ」を解消させた結果がこれです。「決められる政治」とやらを望んでおられた方々は、さぞ満足でしょう。
神奈川新聞のHPで秘密保護法案に対する森君のインタビュー記事を読みました。 http://news.kanaloco.jp/localnews/article/1312060007/
〈絶対に阻止しなくてはならない。 ……それは大前提として実のところ意識のどこかで、もう通しちゃえば? 半ば本気でそう思っている自分がいる〉
HPでそう書いた真意を問われ、〈僕らは戦後一度も絶望していない〉〈『通しちゃえば』なんて言いたくないけど言いたくもなりますよ〉と答えておられます。ハハハ、ほんとにそうだよね。よほど痛い目にあわなくちゃ、この国の人たちは目覚めないだろう。っていうか、何があってもこのままかも、とすら思います。 いかにも貴君らしい、こんなイチャモンをつけておいででした。
〈責任はメディアにもある。テレビを見たり新聞を読んだりして市民は考えるので、メディアがどう反応し、主張するかは重要です。いまになって秘密保護法の反対キャンペーンをしているが、じゃあ『ねじれ解消』は何だったの。『ねじれ解消』という言葉を使う時点で安倍政権の政策を支持したということ。アベノミクスも持ち上げた。こうなることは分かっていたはずです。疑問を持っていた記者はたくさんいたかもしれない。だけど読者や視聴者 に受けるかという客商売の論理で判断され、あらがいも見えない。社会全体の流れに合わせてしまう〉
たしかにそうだ。いまごろ何だ、と私も思う。でもね、このかんのメディア(新聞)のキャンペーンは、「よくやった」と私は思うよ。 私はこの春から朝日の紙面審議委員で、10月末にその会議があったんだよ。そこでちょっとだけ怒ったの。「当事者意識が低いんじゃないか」「もっと大がかりなャンペーンを張らんかい」って。だってね、特定秘密保護法案は、この日の議題にすら、じつは入っていなかったんだよ。その一部はこちらで読めます。 (有料会員だけ?)↓
http://digital.asahi.com/article_search/detail.html?keyword=%BB%E6%CC%CC%BF%B3%B5%C4%B2%F1&searchcategory=2&from=&to=&MN=default&inf=&sup=&page=1&idx=1&s_idx=1&kijiid=A1001120131102M015-13-002&version=2013120800
だから朝日がやる気になった、と自慢したいわけじゃありません。 そうじゃなくって、市民の後押しがないと、「客商売の論理」に左右される商業メディアは動けないんだよ、ヘタレだから。新聞はいまや存亡の危機に立ってるし。アベノミクスを持ち上げたのも、安倍政権の支持率が高かったからだろう。 戦時中のメディアが「客商売の論理」で戦争を後押ししたのと同じで、戦後のメディアが概して平和主義だったのも、やっぱり「客商売の論理」でそのほうが売れるから」だった。 同じように、秘密保護法案に関しても、バブコメ、世論調査、各界からの反対声明、全国各地で同時多発的にはじまった集会やデモを見て、「民意は反対に傾いているようだ」と判断したから、新聞は反対の論陣を張ることができたのでしょう。その意味で、国会外での市民運動は有効だったし、「メディアを動かした」といってもいいと思う。
たしかに遅きに失した感はあります。調べてみると、明確な反対を表明したのは、東京新聞が9月13日、毎日新聞は10月21日、朝日新聞は10 月26日でした。26日って法案が閣議決定された翌日だからね。「今頃かい」ですよ。各界からの反対声明が続々と出たのも、多くは11月に入ってからで、「遅い、遅すぎる」だった。もう少し早ければ、与党内から離反組が出たかもしれず、そこは残念でなりません。 あなたがいつも言ってるように、可決直前になって、これだけの反対意見が出たのも「みんなで渡れば恐くない」の意識が働いたせいかもしれない。 それでも12月7日の新聞各紙(読売と産経は除く)が地方紙を含め、そろって厳しい政府批判の社説を載せたのは壮観でした。こんなことは、しばらくなかったのではないでしょうか。御用新聞の読売・産経は別として、日経ですら、批判的な論説を載せたほどです。 もちろんそれも「反対はしたぞ」というアリバイにすぎず、来週からはてのひらを返したように各紙とも政府寄りの記事に戻るのかもしれない。だから、ぬか喜びはいたしません。ですが、貴君とは別の意味で「強行採決されたよかったかも」と思います。 あえて理由をあげれば……。
●安倍自民党の独裁的(ファッショ的)な体質が露見した。 ●A.みんなの党と維新の会の体制補完的な「インチキぶり」が露呈した。 ●B.「反秘密保護法」で共闘できる人が多いことがわかった。 ●C.国際世論が味方についていることがわかった。 ●D.以上のような条件が整えば、メディアも政府批判ができることがわかった。 ●A.は最初からわかっていたことですが、そもがわからぬおめでたい人のほうが、これまでは多かったんだからさ。「デモはテロ」とブログに書いた石破茂幹事長、しどろもどろの答弁で法案のまずさを体現した森雅子担当大臣も「いい仕事」をしてくれたよね。
●D.に関していうと、テレビが秘密保護法案批判に回ったことが、「おお」でした。特にテレ朝とTBSのニュース番組はよくやった。日テレやフジでさえ、法案が可決した日の夜は国会前の市民集会に中継を出していた。「みんなで渡れば恐くない」の論理です。法案自体に反対はできなくても、 強引な国会運営から批判できるからね。
こうとなると、ひとり蚊帳の外で大馬鹿野郎だった放送局はNHKです。法案審議中の報道もスルーに近かったし、12月6日のニュースにいたっては、国会前ではなく新橋駅前のサラリーマンに取材しているていたらく(「賛成」「反対」をひとりずつ)。しかも法案成立後は、この法律の問題点ではなく、政府がいきなり出してきた「第三者的機関」の説明なんかを、政府にかわってやっている。 「安倍人事」を見越しての保身が、もうはじまっているわけです。12月6日は「NHKが死んだ日」として記憶されるべきでしょう。
|
|
|
|
|
|