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web掲示板談話 斎藤美奈子・森達也 第二十二回 |
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件名:復興と東京五輪 投稿者:斎藤美奈子 2014/3/14
森達也さま
まず前回の貴君のご意見から。 〈たとえ航空自衛隊のトップの位置にいようとも、NHKの会長や経営委員という要職に就いていようとも、思うことや考えることを表明する権利はいついかなる場合でも保障されねばならない。むしろ沈黙を許すべきではない〉 たしかに、そう言われるとそんなような気がしてきます。 〈だって日本の防衛機構のトップの立場にいるからこそ、あるいはNHKという公共放送の舵取りの一人であるからこそ、個人的な思想信条はつねに表明され、多くの人の目や耳に晒され、あらゆる角度から批判されねばならない。そして場合によっては「ふさわしくない」として解任すればいい。こうした立場に就いたら個人的な思想信条を表明すべきではないとするならば、彼らが密室でどのようなことを言ったりやったりしているのかがわからなくなる〉 逆接的な意味で、これはよーくわかるご意見です。 でもさ、表現の自由にも「公共の福祉に反しない限り」という条件がついているわけで、だれもが、いつでもどこでも、どんな場合でも「個人的な思想信条はつねに表明する」権利を行使していいってことにはならないよね。これはいつも貴君がいっている「ヘイトスピーチ」の問題ともからむと思うのですが、たとえば差別的な発言を無責任に巻散らかしてもいいとは、私はやはり思えない。 まして彼らは権力者です。権力者の言動をチェックするという意味では、包み隠さず言葉にしてもらったほうが「わかりやすい」とはいえますが、権力者である以上、言動に制限がついてまわるのは当然なのではないか、と思うんだけど。 この件については、もう少しちゃんと考えてみたいと思います。
さて、311から3年が経ちました。東京新聞に貴君が寄稿された震災映画についてのコラム、おもしろく拝読しました。私もいろいろと思うところはありますが、以下、共同通信に書いたコラムを貼っておきます。私は東京五輪に本気で怒っているのです。 ------------------------------------------------------------------ 東日本大震災と東京電力福島第1原発の事故から3年。原発事故はまだ進行中。復興が進んでいるともいいがたい。 しかし、少なくともここ東京では「あれはもう終わったことさ」といわんばかりの空気が蔓延しているように見える。 2月9日の東京都知事選で当選した舛添要一知事は、2月26日の施政方針演説で「日本の近現代史を振り返れば、わが国は2度、外圧によって大きな変革を迫られました」と述べた。 「1度目は19世紀のペリー提督の黒船来航、2度目は1945年の太平洋戦争の敗戦です。しかし、21世紀は外からではなく、日本の中心、首都東京から変革のうねりを巻き起こしていきたい。2020年の東京オリンピック・パラリンピックは、そのための絶好の機会であります」 そ、そうなんだ。東京五輪が黒船来航や敗戦に匹敵するほどの「変革の機会」なんだ。 もちろんこれは長い演説の中の一部であり、都政のビジョンを語るうえで大風呂敷を広げてみたという程度の話だろう。でも、だからこそ、ここには都知事の(あるいは都民の?)本音が表れている。震災復興より東京五輪のほうが大事! 3・11後、これを機に文明のあり方を考え直さなければならないと多くの識者が口にしたのは何だったのだろう。
再び知事の演説から引けば、「東京オリンピック・パラリンピックの開催準備を起爆剤にして経済に力を与え、(略)その果実が全国に、東北の被災地に行き渡って、日本全体を元気にする」。「それこそが首都東京の使命であります」 五輪の目的は経済効果だという露骨な表明。しかも被災地の復興は東京のオコボレで十分やれるという判断なのか。 東京がオリンピックの招致に成功したのは、今回で3度目だ。 1度目は1940年。日中戦争の長期化と施設建設が間に合わなかったことで、結果的には五輪開催権を返上したが、そもそもは「紀元二千六百年記念行事」の一環として関東大震災(1923年)からの復興をアピールするのが狙いだった。 2度目は1964年。高度経済成長期を象徴するイベントというイメージが強いけれども、もとはといえばこのときも、戦災からの復興をアピールし、日本人の自信を回復させるという目的が根底にはあった。 では今度はどうか。 昨年9月、ブエノスアイレスで開催されたIOC総会で日本の招致団がどのようなプレゼンテーションを行ったか。 あらたらためて検証し直すと、釈然としない思いにかられる。関係者のスピーチにも、安倍晋三首相の演説にも、震災からの復興にスポーツの力がどれほど寄与するかを訴える内容が含まれる。3度目もまた復興五輪!
2006年、石原慎太郎都政の下でスタートした五輪招致活動はもともと決め手を欠くものだった(だから09年のIOC総会で落選した)。そこに降って湧いた大震災。東京は被災地を利用することで五輪招致に成功したのではなかったか。 だが一方で、安倍首相は「(福島第1原発の)状況はコントロールできている。東京には、これまでもそしてこれからも、何ら悪影響は及ばない」とも述べた。都合のいいところは被災地に便乗し、返す刀で東京と福島は別だといいきる。なんという厚顔無恥。 日本世論調査会が1月に公表した全国世論調査では、東京五輪は震災復興に役立つかとの質問に「役立つと思う」「どちらかといえば役立つと思う」と答えた人が57%。「どちらかといえば役に立たないと思う」「役立たないと思う」は40%だった。過半数が「役立つ」と答えているものの、4割もの人が懸念を示しているのは無視できない。 今後、五輪関連施設の建設がはじまれば、機材や資材や人材は東京に集中し、首相が「影響がない」と約束した手前、原発関連の情報はますます隠蔽されるだろう。 五輪翼賛報道が幅をきかせている中、とてもそうは見えないだろうけれど、私自身も含め、この状況を苦々しく思っている都民もじつは少なくないのである。 ------------------------------------------------------------------ 以上、引用おわり。 先日、広島に行ってきました。その件については、また別の機会に。
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