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web掲示板談話 斎藤美奈子・森達也 第四十回 |
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件名 :「安保反対」再び 投稿者:森達也
斎藤美奈子さま
いまPCで衆院本会議のインターネット中継を見ている。なぜNHKは昨日と今日、この歴史的な国会の状況を中継しないのだろう。 言いたいことはいくらでもある。でも今の僕は発表する媒体をあまり持っていない。まあむしろそのほうがいいのかもしれない。これまではあまりにインプットとアウトプットのサイクルが早すぎた。ジャーナリストや批評家ならそれでよいのかもしれないけれど、僕は少なくともジャーナリストや批評家ではない。少しためる。発酵させる。絶対にそのほうが良いはずだ。 …と思いながらも、今のこの状況については、やっぱり黙して見ているわけにはゆか ない。安保関連法が衆院特別委員会で強行採決された昨日、夜半にかけて国会前に多くの人たちが集まって反対の声をあげたとの報道を知って、絶望と希望を僕は同時に抱えた。まだあきらめない。首の皮一枚だけど、まだ絶望には浸るには早すぎると自分に言い聞かせた。 とりあえず今の報道についての違和感をひとつだけ書く。「理解が足りない」「議論が熟していない」は今の政権や安倍首相が使う常套句だけど、これが意味するところは明らかだ。 「理解が足りないから賛成の声が広がらない」とのレトリックだ。 ならば言わなくてはならない。理解が足りないのでもなく、議論が熟していないわけでもない。充分に理解している。そのうえで反対なのだ。足りないのはあなたの歴史認識だ。抑止力が戦争を引き起こすことについての理解の欠落だ。ところが「(国民の)理解が足りない」「議論が熟していない」を、(読売や産経はともかく)法案に反対しているメディアも、当たり前のように使う。なぜ安易にこの語彙を使えるのだろう。 あるいは日米同盟。これもいろんなところで書いてきたけれど、この言葉も正確じゃない。日本とアメリカの軍事についての取り決めは、同盟(alliance)ではなく協定(treaty)だ。日本が過去に他国と結んだ同盟は、日英同盟と日独伊三国同盟しかない。ところがそうした歴史的事実が、アメリカと一体化したいとの願望のもとに歪曲される。上書きされる。 言葉がとても杜撰になっている。政治とは言葉なのに。その最後の砦が憲法なのに。ならば憲法が蔑にされて不思議はない。歴史が歪曲されることも当然だ。 ……たったいま衆院可決。この国は大きな転換点を超えようとしている。でも民放のワイドショーは相変わらずグルメレポートやタレントのダイエット情報ばかり。もう滅んでしまえ。半分本音でそう思う。
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