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web掲示板談話 斎藤美奈子・森達也 第四十三回 |
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件名:安保後と新9条 投稿者:斎藤美奈子
森達也さま
10月の新潟高校の学年同窓会に行ってきました。初参加です。そしたら前回(5年前)出席したあなたが「斎藤美奈子はこういう会には絶対出ない」的な発言をしていたと、何人かに言われました。んもう、そんなこと言ってないじゃん(笑) まあ、でもみんな、いい歳だもんね。旧交をあたためつつ、時間の流れを感じたよ。その流れで、先週はフェンシング部の仲間と飲む機会があり、小林正夫くんが「森達也によろしくいって」と言っていたのでお伝えします。 以上、超ローカルな雑談でございました。
すっかり秋になり、貴君のいう「アカウントを記憶しない国」の様相がますます加速してますね。夏には安保法制反対論で、あれほど盛りあがったのに、いまはもう「新9条論」なんていう、昔の言い方でいうと「日和見主義」的な発言が大手をふってまかり通っている。安保をめぐって、憲法に従えという議論をしているときに「憲法を変えろ」という横やりをいれるのは、敵に塩を送るのと同じじゃないのか。
ということで、本日(11月11日)付の東京新聞に書いたのが以下のコラムです。 ------------------------------------------------------------------ 敵に贈る塩? 東京新聞(十月十四日)に続いて、朝日新聞(十一月十日)が「新9条」を記事にした。「平和のための新9条論」(東京新聞)、「憲法論議に第三の視点」(朝日新聞)だそうである。 ま、議論だけなら、いくらでもおやりになればいい。だけど私が官邸の関係者なら「しめしめ」と思いますね。「東京も朝日も『潰さなあかん』と思っていたが、意外と使えますよ、総理」「だな。改憲OKの気分がまず必要だからな」 新9条論者の意見は、2項「陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない」の改正を意味する。専守防衛に徹する、集団的自衛権の行使を禁じる、国連中心主義にする、外国の基地使用を許可しない……。 いちいちごもっともである。でも「みなさまロマンチストだなあ」の思いも禁じえない。現行の条文でも「地球の裏側まで自衛隊を派遣できる」と解釈する人たちだ。条文を変えたら、おとなしく従うってか。新9条とはつまり、安保法論議の過程での禅問答に疲れ、「憲法を現実に近づけませんか」って話でしょ。それは保守政治家がくり返してきた論法だ。 このタイミングで、あの政権下で、改憲論を出す。彼らはウハウハである。「あとは新9条論者と護憲論者の対立を煽るだけですよ、総理」「だな。もう新聞も味方だからな」 ------------------------------------------------------------------ 全体に文体のお行儀がよろしくありませんが、もはや、こういう書き方しかできない体質になってしまった私。 あなたのペシミズムを罵倒する気はさらさらないけど、絶望してても先はないので、この先どうしたらいいかを考えて書いたのが、共同通信配信の下の記事です。 ------------------------------------------------------------------ 集団的自衛権の行使を容認し、自衛隊の活動範囲を広げる安全保障関連法が成立して1カ月たった。夏の間は国会議事堂前をはじめ、全国各地でくり広げられた法案反対デモも、秋風とともにピークをすぎた感がある。 共同通信が10月7日、8日に実施した世論調査によると、安保法について政権が「十分に説明していると思う」は17・6%、「思わない」は78・6%。それでも、内閣支持率は44・8%で、前回調査(9月19日、20日)の38・9%から5・9ポイントも上昇している。 しゃくなことに「法律が成立すれば、国民はすぐに忘れる」という政府与党筋の発言が証明されてしまったかのようだ。
安保政策、原発の再稼働、普天間飛行場の移設問題など、個別の案件では賛成より反対の声が多いのに、40〜50%の支持率を維持し続けている安倍晋三政権。これはいったいなぜなのか。 理由のひとつは無力感である。デモ、公聴会、パブリックコメント。どんな形で声をあげても、聞く耳持たずの政府与党。数の論理ですべてが押し切られ、国民の声は一顧だにされない。一昨年12月の特定秘密保護法成立の際もそう、昨年7月の集団的自衛権の行使を容認する閣議決定の際もそう。この状況は人々に深い徒労感をもたらす。 もうひとつは野党に対する絶望感だ。安保法の成立後、共産党は他の野党に参院選に向けた共闘を呼びかけたが、反応はいまいちで、ただちに反安倍連合が結集する気配はない。さらに有権者は3年余りで倒れた民主党政権への不信感をまだぬぐいきれていない。 言っても届かぬ政府与党。受け皿になり得ていない野党。これでは投票に行く気もしない。内閣支持率は40%代でも、もっとも多いのは「ほかに適当な人がいない」という消極的な理由である。 加えて50%以下の得票率で75%の議席を獲得してしまう小選挙区制が、有権者の無力感に拍車をかける。 でもね、その無力感こそが、敵(と言っちゃうが)の思うツボなのだ。では、反安倍派の有権者はどうしたらいい?
遠回りに思えても、ここは5年、10年先……が長すぎるなら、次の衆院選(解散がなければ3年後)を見すえ、民主主義の立て直しを図る以外にないように思う。 1人でもできることはたくさんある。まず「ついでに作戦」。政治向きの話題を私たちは避けてしまいがちだけど、日常会話で、電話で、メールで、SNSで「安倍政権ってひどくない?」「私は怒っているんですよ」などの一言を用事のついでにつけ加える。すると必ず賛同者が現れる。「言いたかったけど黙ってた」という人は、予想以上に多いのだ。 政治に関連した地域の団体が主催する学習会や講演会に参加してみてもいい。逆に、市民運動、ボランティア団体、労働組合などの活動拠点を持っている人は、民主主義、憲法、平和、あるいは地域の問題に関連した市民参加型の勉強会を積極的に開いてほしい。地元の大学関係者や弁護士、地方議員など、交通費だけで講師に来てくれる人もきっといるはずだ。二人以上いれば、自ら勉強会的なサークルを立ち上げることだってできる。 人が集まったら、メールアドレスだけでもいいので、できれば名簿を作成したい。個別の案件で活動している地域のグループ同士、横の連絡も図りたい。政治は最後は数である。ゆるくても、横の連帯は強みになる。 活動の過程で、利用できるものは利用する。地元にいる新聞記者を巻きこんで活動を報道してもらう。落選中の議員も含め、地元選出の国会議員や地方議員に働きかけて意見や要望を託す。 そんな日々の活動を通して、推薦したい候補者や自ら立候補してもいいという人材が現れれば、めっけものである。 民主党政権の失敗のひとつは連合以外にこれといった支持母体がなく、すぐにそっぽ向かれたことだった。安倍政権を倒しても、今まで通り永田町にお任せでは、また同じことになるだろう。民主主義のためにできることは、デモ以外にもまだまだあるはずだ。 ------------------------------------------------------------------ でも、反響はゼロでした(笑)。 まーそんなもんかなとも思うけど、選挙のたびに「今度こそ」と誓って、負けて絶望して、また次の選挙で……という繰り返しでは、あまりに場当たりでしょう? これでも少しは前向きに考えてるんだ、という内容でした。
斎藤美奈子
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