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web掲示板談話 斎藤美奈子・森達也 第六十五回 |
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件名:なぜ安倍政権は強いのか 投稿者:斎藤美奈子
森 達也さま
桜が満開をすぎたと思ったら、気温はあっというまに20度を超え。先週はダウンを着てたのに、今週は半袖って、季節がすぎるのはなんて早いのでしょう。 前回の貴君の話↓ ……………………………………………………………………… 同時進行で起きているこれら3つの状況に共通することは、今まで強い人気を誇っていた保守(右派)勢力のほころびが、次々と露わになっているということだ。そういう意味では、反安倍・反石原・リベラル的な思想を持っている人たちにとって、とても痛快な事態だろう。他人事じゃない。僕ももちろん興味津々ではある。でもだからこそ、自分に釘を刺したくなる。 ……………………………………………………………………… 3つの状況とは、森友学園問題で安倍夫妻がピンチ、松井一郎大阪府知事(維新)にも翳り、豊洲移転問題では石原慎太郎元都知事が劣勢、でした。 そうだね、私も一瞬「痛快」かなと思ったけど、1カ月たった今日、事態は貴君が予想したしたとおりになりつつある。森友問題は政権が3つくらい飛んでもおかしくない状況だと思うんだけど、どの問題もウヤムヤなまま推移しており、いまのところは「保守にとって大きな痛手にはならない」状況です。 アメリカのシリア攻撃と、北朝鮮のミサイル騒ぎと、それに続くアメリカと北朝鮮の一触即発状態勃発で国内ニュースはすべて後まわしになるのも、いつものことだしね。北朝鮮は安倍政権の援護射撃をしてんじゃないかと思っちゃうよ。
首相夫人の寄付云々(「でんでん」ではない)の話が出てきたとき、私は安倍昭恵氏の著書『「私」を生きる』(海竜社・2015年11月刊)を読んだばかりだった。それについては週刊朝日の書評で書き、東京新聞のコラムでも書いたんだけど、ああいう彼女の一連の行動は確信犯的なんだよね。なんといっても驚いたのはここだった。 ……………………………………………………………………… 〈自分では「好奇心が強い」ほうだとは思っていないのですが、「気になることがあったら、とりあえず行ってみる」精神で動いています。 その際の指針としているのは、同窓の先輩である作家の曾野綾子さんから教わった、次の二つのことです。 「ちゃんと自分の目で見なさい」 「寄付をするときは、必ずしかるべき人に直接、手渡さなければならない」〉 ……………………………………………………………………… ちょっと凄くない? 「寄付は直接手渡す」がモットーなんだから、森友学園の籠池元理事長にも、当然そうしていたにちがいないと考えますよね。
これに味をしめたわけでもないけど、この機に「安倍ヨイショ本」を何冊かまとめて読んだのね。田崎史郎『安倍官邸の正体』とか、山口敬之『総理』とか。安倍首相の「寿司友」などと揶揄されている政治評論家や(自称)ジャーナリストの本です。 それで改めて確認できたのは、「ほとんど側近政治。人治政治に近い」、だが「現在の官邸主導体制は私たちが思っていた以上に盤石である」ってことでした。
(1)権力の中枢にいるのは、安倍首相、菅官房長、今井尚哉首席秘書官の3人で、ここに3人の官房副長官を加えた6人の「正副官房長官会議」が事実上の「最高意思決定機関」。ここでほとんどのこと(首相の思惑に沿った政策)が決められる。 (2)官僚は2014年4月に発足した「内閣人事局」によって、官邸(実質的には菅)によって人事権を完全に握られているため、官邸には一切逆らえない。 (3)小選挙区制下の公認問題で、手足を縛られた国会議員も官邸批判は一切できない。
驚くべきことに、ヨイショ本の著者たちは(1)(2)(3)をよくないこととは思っていない。むしろ「たくみな権力の掌握術」として感嘆している節があります。 彼らは、政権の内部に入り込んで首脳と親しく付き合うことが「優れた記者」の条件だと思っている。そういう記者は、各社にいるような気がします。 だとすると、官邸がメディア圧力をかける必要もない。彼らは官邸が怖くて報道を「自粛」しているのではなく、同調圧力に屈したのでもなく、積極的に官邸に「よかれ」の立場で記事をつくっているのではないか。まさに「忖度」の構図が、政権とメディアの間にもできあがっているわけだよね。 それは半ばわかっていたことだったけど「ジャーナリズムの最大の役割は権力の監視」という基本中の基本は、もうメディアでは共有されなくなっているのかもしれない。 以上が「保守」ないし「右翼」といわれる親安倍陣営のスタイルだとしたら、「リベラル」ないし「左翼」とされる反安倍陣営はどうだろう。こっちはこっちで「自分たちは正しい主張をしている」「正義は貫徹されなければならない」というクリシェから一歩も出ないからね。じゃあなんで、こんなに負け続けてんの? という話です。 日本会議もそうだけど、彼らは着々と歩を進めてここまで来たんだよね。 安倍政権が強いのは「戦後民主主義体制の中では自分たちはマイノリティである」という自覚が強烈にあることです。だから目的(最終的には改憲。その前段階としての安保政策の転換、歴史認識の改変など)のためには、手段を選ばないんだよね。こういう人たちに理論的に正しさで対抗しようと思っても通用しない。 少なくとも私たちは「敵に学ぶ」という姿勢を少しは持ったほうがいいと思う。安倍政権を罵倒して溜飲を下げたところで、ガス抜きにしかならないわけで。 「あんな本を読むと目が腐る」とかいって、親安倍派の本をみんな読もうとしないけど、戦いの基本は敵について知ることです。「武器は敵から奪え」とチェ・ゲバラも言っています。実践の書としての『ゲリラ戦争』をもう一度読み直そうと思ってます。
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