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WEBマガジン 17/10/13


web掲示板談話 斎藤美奈子・森達也 第七十二回

件名:炎上と9条
投稿者:森 達也

保守速報というまとめサイトに『映画監督・森達也「自民党に投票するバカは迷惑だから投票に行かないで欲しい」』と題された記事がアップされたのは数日前。あっというまにとんでもないことになった。要するに炎上。これまで何度も体験しているけれど、今回の規模は最大かも。

この記事のもとになったのは『週刊プレイボーイ』誌に掲載されたインタビュー。その本文もネットに上がっているから読んでほしいけれどhttp://wpb.shueisha.co.jp/2016/07/06/67558/、「バカ」も「迷惑」も「投票に行かないでほしい」も、元の記事のどこにもない。要するに僕はこんなこと一言も言っていない。
弁明するのもばかばかしいので放っておこうと思ったけれど、他のまとめサイトhttps://sakamobi.com/news/moritatsuyaでは、「立民党なら行くべき」とタイトルに加筆している人も現れた。他にもいろいろ保守速報から派生して増えているようだ。『週刊プレイボーイ』からインタビューされたのは去年の6月。一年以上前だ。立憲民主党など存在もしていない。そもそも何で一年以上も前の記事が、このタイミングでアップされるのだろう。
要するに「バカは迷惑だから投票に行かないでほしい」も「立民党なら行くべき」も、これをまとめた人の作文だ。でもこのタイトルに煽られた人たちが(ツイッターのアイコンなどには日章旗などをあしらった人が多い)、「こんなバカを許すな」「民主主義をわかってない」「誰だよこのバカ」「左翼のなれの果て」「若者を愚弄している」「死ね」「大学を辞めさせろ」と大騒ぎだ。保守速報には元の記事をダイジェストした記事が言い訳のように掲載されているけれど、これも都合よく編集されて重要な個所が削除されている。

ただし今も、ネットやSNSで書きこむ人たちに対して弁明する気はまったくない。すごいなあと呆れている。ネットを常時利用しているはずの人たちがネットをここまで理解していないのかと驚いている。そもそもタイトルだけに煽られた人たちは本文を読まない。このブログだって見ないだろうな。弁明の意味などない。とはいえ、一昨日にはツイッターに、家族に危害を加えることを仄めかすリプライまで届いた。だからまったくの放置もできない。こうしてネットで世相が作られるのかとあらためて実感した。彼らは誰かを叩く号砲が欲しいだけ。弁明など届かない。保守速報では数日間、金正恩やトランプを抜いてトップの扱いだった。まあ、ある意味で光栄だ。でも本当に、まとめサイトで商売している人たちは、そろそろ自分の胸に手を当てて、自分は何をやっているのだろうと考えたほうがいいと思う。

……とここまでは枕。この後に書くべきはもちろん選挙のことであるべきとは思うけれど、どうにも気が重い。筆が進みそうにない。炎上や恫喝は別に今さらだけど、つくづくうんざりしたことは確か。
枝野立憲民主党代表が新党結成を発表したとき、もしかしたら日本の政治はようやく変わるかも、と一瞬は思ったけれど、でもその気持ちはどんどん冷えている。理由は立憲民主党にあるのではなく、この国の民意とメディアにある。……と書きながら、要するにそれはこの国すべてなのだと思う。

最近は、憲法9条はこの国には分不相応なのでは、と思うようになってきた。でも自衛隊が存在するから憲法を変えるべきと言う人に、これだけは言いたい。憲法は最高法規であると同時に理念でもある。この国では連日のように人権侵害の事例や事件が起きているけれど、だから憲法11条を破棄せよなどとは誰も発想しない。
9条を変えたい理由は怖いから。つまり銃を手放せないアメリカと同様だ。中国も怖いし北朝鮮も何をするかわからない。だから武器が欲しい。自分と愛するものを何があっても守り抜く。
その自衛本能が戦争の最大の原動力なのだと気づいたからこそ、この国は70余年前に9条を掲げたはずなのだけど、やっぱりその器ではなかったということなのかな。

安倍首相はテレビで森友加計問題を追及されるたびに、「国会で私が関与していないことは証明された」とか「籠池さんは詐欺師です」などと答えている。特に後者については、そもそも籠池氏が起訴された内容と今回の疑惑は全く別物だし、(郷原信郎弁護士が毎日新聞で指摘したように)推定無罪原則を一国の首相がここまで露骨に踏み外して個人攻撃することに驚く。毎日新聞以外のメディアがこれをスルーしていることにも驚く。個人攻撃はしたくない。それは卑しい。そうは思いながらも、思想信条云々だけではなく、こうした個人攻撃を自分を守るために安易に口にする人は、やっぱり軽蔑したくなる。

最後にもう一つ、昭恵夫人について安倍首相はテレビの党首討論などで、「私がこれだけ説明したから妻は発言する必要はない」というニュアンスを何度も繰り返していたけれど、女性は怒るべきだと思う。妻は夫の付属物ではない。

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