現代書館

WEBマガジン 18/08/07


web掲示板談話 斎藤美奈子・森達也 第八十二回

件名:18年夏、原発と死刑
投稿者:森 達也

美奈子さま

いま旭川です。昨日の最高気温は26度。気持ちいい。でも数日前までは連日35度を超えていて、熱中症で亡くなった人もいたらしい。涼しいですか、と地元の人に訊かれたので、秋のようです、と答えたら、私はまだ暑いです、とその人は言っていた。
毎年夏の終わりには軽い鬱になるくらいに夏が好きなのだけど、今年はさすがにギブアップ。日本列島のエアコンの稼働率はまちがいなく戦後最高のはずだけど、電力が不足しているとの声は聞こえない。
福島第一原発が爆発した直後、東京電力は計画節電を実施した。街やコンビニは少しだけ暗くなって、僕は居心地がよかった。確かあのときは、信号などが付かない地域もあって、事故で二人人が亡くなったはずだ。原発が稼働しなければ、今後もこんな生活をしなければならない。多くの人はそう思った。もしも日本中の原発が再稼働しなければ、この国は夏の暑さと冬の寒さを乗り越えられない。そう主張する人もいた。
でも今現在も、東京に電力を供給していた福島はもちろん柏崎刈羽原発も再稼働はしていないのに、これだけエアコンを酷使しているのに、電力不足や節電の声はまったく聞こえてこない。
だったら原発いらないじゃん、と思う。
もちろん、火力発電による二酸化炭素の問題はあるし、電気料金も上がっているのかもしれないけれど、でも少なくとも、さまざまなリスクが内在していることが明らかになった原発を保持しなければならない理由は、僕にはまったくわからない。

原発だけではない。国会で安全保障法制が可決された2015年、この国は取り返しのつかない段階に進んだと絶望したけれど、今回のオウム大量処刑で、また一つ進んだと思う。安倍政権になってから処刑された人の数は合計で38人。
7月26日朝、オウム死刑囚7人に続いて、残された6人が処刑された。同一事件の死刑囚は同じ時期に処刑する。その原則があるからこそ、政権は大量処刑に踏み切ったはずだ。でも残された死刑囚6人の執行まで、なぜか20日も間が空いた。
理由はわからない。でも推測はできる。まずは西日本の豪雨災害。次に執行前夜に行われた赤坂自民亭のどんちゃん騒ぎへの批判が集中したから、少しインターバルを置こうと判断したのだろう。自分たちの都合や体面で変更できる程度の原則ならば、もっと時間を置くこともできたはずだ。少なくとも再審請求中の死刑囚が何人もいたのに、急ぐ理由はどこにあったのか。
7人が処刑されたことを、残された6人は知っていたはずだ。自分たちが処刑されるまでの二十日間、彼らは何を思いながら日々を過ごしていたのだろう。これは拷問だよ。実際に土谷正実死刑囚は、突然扉を蹴ったり大声を出すなど完全に精神状態が普通ではなかったと、東京拘置所ですぐ傍にいた庄子幸一確定死刑囚が証言している。
もちろん心神喪失状態の麻原も処刑できない。それは近代司法国家としては最低限のルールのはずなのに。

……実はずっと鬱状態。表現をめぐるフィクションとノンフィクションの関係性については次回で書きます。

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