現代書館

WEBマガジン 20/11/30


web掲示板談話 斎藤美奈子・森達也 第109回

件名:ちょっと早めの今年の総括


森 達也さま

 前回(10月26日)の森君のレポートがいう「神輿がなくなったエンジンは暴走する」という菅義偉評はものすごくウケました。
〈神輿がなくなったエンジンはより加速した。しかも剥きだしとなったメカニックには、抑制や後ろめたさや姑息さはない。だって機械だもの〉
〈安倍前首相から臆面や抑制や含羞を外して駆動パーツだけになった菅首相〉
 ほんと、言い得て妙とは、このことだね。膝を打ちました。

 その前の回、私が書いたのは月末の9月30日で、日本学術会議の候補者任命拒否事件が発覚した翌10月1日でした。菅政権の地金がみごとに出た感じでした。 で、10月と11月は、この件ですっかりふりまわされた感があります。
 菅首相は「国民のために働く内閣」にすると言っていて「当たり前じゃん」と あなたは応じていたけれど、あれからさらに1か月たった今、菅政権は「国民の ために働く内閣」にすらなっていない。学術会議の一件もそう、GoTo事業に固執して、コロナ対策を怠った結果、第三波がやってきて、またもや医療崩壊が起きそうになっているのもそう。
 この人はそもそも「国民のために働く」意識なんて持っていないんじゃないだ ろうか。

 ちょっと早いけど、2020年のニュースを振り返ると、トップ3はたぶんこうな るでしょう。
 (1)新型コロナウィルス感染症、世界中で拡大。
 (2)安倍政権の退陣と、菅政権の発足。
 (3)トランプ大統領の敗退と、バイデン候補の勝利。

 日常生活に関係の深い順で並べると、この順になると思うのだけど、いずれに してもかなり激動の年であったことは間違いありません。
 さらにいうと、(2)も(3)も(1)の影響をじつは受けている。
 安倍政権の求心力が落ちたのは、アベノマスクに象徴される、コロナ対策のトンチキぶりが明らかに影響している。「持病の悪化」を理由に安倍前首相は政権を退いたわけだけど、内実は、自分の手ではどうにも対処できなくなって、政権を投げ出したってことだよね。トランプの場合も、やっぱりコロナ対策を甘く見 ていたことが、支持率の低下につながった。自然の脅威の前では、あれほどの 「盤石に見える政権」も盤石ではいられないんだね。東京オリンピック・パラリンピックが延期になるとは(開催そのものが無理だろうと私は思っていますけ ど)、昨年のいまごろは想像もしなかったわけだから。
 先行きが明るいとはお世辞にも言えないとしても、「安倍・トランプ時代」が 終わっただけでも「一歩(半歩?)前進」と思うしかないですね。
 菅政権を甘く見ていたという点で、私たちの意見は一致したけど、第三波を迎えた時点での菅政権のコロナ対策は何もやっていないに等しい、首相は官僚が書いた原稿を読む以外はできないみたいだし、このままだと、支持率が急下降する可能性もあります。

 もうひとつ、直近の話題として、わずかな「朗報」といえるのは、「桜を見る会」前夜祭の問題が再燃したことでしょう。前夜祭の会場となったホテル側への総支払額と会費徴収額の差額分(報道によれば916万円?)を安倍氏側が補填していた可能性がある。それが事実なら、公職選挙法ないし政治資金規正法違反の疑いがあるとして、東京地検特捜部が動いているという、読売新聞が11月23日にスクープした、あのニュースです。
 もうひとつは、「菅首相の2500人パーティー 政治資金報告書に不記載だっ た」という「週刊ポスト」12月11日号のスクープですね。2014年4月19日、横浜 ロイヤルパークホテルの大宴会場で〈内閣官房長官 すが義偉 春の集い〉が開かれたが、菅氏の資金管理団体の政治資金収支報告書には、このパーティーの記 載がない。しかも会費は、安倍前夜祭の5000円よりさらに安い1500円。安倍事務所の「前夜祭」と同じ構図ですよね。その上さらに菅事務所は「成田山初詣バス ツアー」「すが後援会ディナークルーズ」「すが義偉・なかよしゴルフコンペ」 なんかも開いていたと「ポスト」は書いている。
 安倍前夜祭の件も、菅パーティーの件も、よっしゃーと私は思ったのだが、週が明けてみると、どうも続報が少ないなあ。こういうのは、第一報が出たあと、 他のメディアがどのくらい関心をもって後追い取材をするかに、かかっている じゃない? 今度もまたスルーされて、ウヤムヤになるのだけはやめてほしい。

 「桜を見る会」スキャンダルは、しんぶん赤旗日曜版のスクープ(2019年10月13日)で、赤旗の一連の報道は今年の日本ジャーナリスト会議(JCJ)大賞を受賞した(「桜を見る会」への疑問点をはじめてを記事にしたのは19年4月16日の東京新聞)。学術会議任命拒否の一件も、赤旗(10月1日)のスクープだった。
 メディアの劣化という言葉を私はあまり使いたくないんだけどさ、一般の大手新聞社はなにをやってたのよ、という話だよね。このところ、一政党の機関誌(赤旗)や週刊誌(週刊文春とか)に、重要なニュースをぬかれっぱなしじゃない?  おそらくこれは、調査能力というより、視点の問題なんでしょうね。「みんな知っていたけど、そこにニュースバリューがあるとは、換言すればそれが醜聞に値するとは思っていなかった」ってことですよね、おそらく。
 にもかかわらず、朝日新聞(11月28日)には〈「しんぶん赤旗」はジャーナリズムか〉なんて記事が載るわけだよ。
〈共産党の機関紙「しんぶん赤旗」が9月、優れたジャーナリズム活動に与えられるジャーナリスト団体の賞で初めて大賞を受けた。対象となったのは、安倍晋三前首相が主催した「桜を見る会」をめぐる報道。政党機関紙の受賞は珍しいが、その活動とジャーナリズムは相いれるのか。実像を探った〉。これがリード。
 自分たちのふがいなさを棚に上げて、何を偉そうに、です。
 メディアがくだらないスクープ合戦に血道をあげて、他紙や他誌をディスっている間に政治はここまで暴走した。暴走を許したのはいったい誰なのか、と問いたいです。

斎藤美奈子

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