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WEBマガジン 22/12/01


web掲示板談話 斎藤美奈子・森達也 第133回

件名:野球とサッカーに踊る国
投稿者:斎藤美奈子

森 達也さま

 12月です。あっというまに師走です。
 そろそろ今年の10大ニュースが発表される時期ですが、その前に本日(12月1日)、ユーキャン新語・流行語大賞のトップ10が発表になりました。貴君はそんなに興味がないと思いますが(まあ私もですが)備忘録として、いちおう記しておくと……

■村神様【年間大賞】 今年プロ野球で56本塁打を放ち、史上最年少での3冠王に輝き、旋風を巻き起こした、ヤクルトの村上宗隆内野手(22)の“上”を“神”にもじったもの。その神がかり的な活躍、勝負強い打棒を賞賛した呼び名。

 だそうです。プロ野球なんかい……という感じですね。野球って、いまでもまだ国民的スポーツなのかなあ。地域ナショナリズムと結びついた高校野球にはまだ「国民的行事」感がないとはいえませんが、プロ野球に一喜一憂してるのっていまや「昭和生まれのおっさん」だけ、みたいな気がするんだけどな(すみません、偏見です)。
 ちなみに、それ以外のトップ10は以下の通り(順位なし、並びは五十音順)

■キーウ ウクライナの首都。ロシアのウクライナ侵攻後の3月31日、それまでキエフとされていた首都を、ウクライナ語の発音に近い「キーウ」に変更した。

■きつねダンス プロ野球・日本ハムのファイターズガールズが「The Fox」の楽曲に合わせ、耳カチューシャとしっぽを付けて、きつねの振り付けで踊るキュートなダンスが大流行した。ダンス動画ブームも相まって、大ヒットした。

■国葬儀 安倍晋三元首相が襲撃されたことを受け、吉田茂氏以来となる戦後2例目が執り行われた。政府が国葬実施を決定すると、国葬の定義、決定のプロセス、予算などを巡り、反対するデモが起こるなど、国を二分する議論を巻き起こした。

■宗教2世 宗教を信仰する親などの家族や宗教的集団の元で、その教えの影響を受けて育った子ども世代のこと。安倍晋三元首相の襲撃で、容疑者の母親が旧統一教会の信者であることで家庭が崩壊したことを犯行理由に挙げたことで注目が集まった。

■知らんけど 断定を避け、あいまいな表現にして、その場を和ませるなど、関西圏だけでなく、話の終わりに「知らんけど」を付ける人が増えている。

■スマホショルダー スマートフォンを入れるためのショルダーバッグのこと。高校生の4分の1以上がスマホを持っている時代。キャッシュレスも進み、スマホと鍵などちょっとしたものだけをもって“手ぶら”で出かける若者が増えている。

■てまえどり スーパーやコンビニなどで、食品棚の手前に陳列された消費期限が早めの商品から買うようにしようという取りくみ。小売店で期限が過ぎて廃棄されることによるフードロスを削減する効果が期待される。

 少なくともこれらを見て、2022年がどんな年だったかを推し量るのは難しいよね。
 選考委員はけっして不見識な人たちとはいえないと思いますけど(下記参照)、何がズレてるんだろうな。高齢化かな(偏見です)。興味や関心事が多様化している昨今、あるいは新語・流行語という概念自体が、もう時代に合わなくなっているのかもしれない。

■選考委員……姜尚中氏(東京大学名誉教授)、金田一秀穂氏(杏林大学教授)、辛酸なめ子氏(漫画家・コラムニスト)、俵万智氏(歌人)、室井滋氏(女優・エッセイスト)、やくみつる氏(漫画家)、大塚陽子氏(「現代用語の基礎知識」編集長)

 この中で多少なりとも政治に関係しているのは「国葬儀」と「宗教2世」で、どちらも安倍晋三元首相銃撃事件に端を発しているわけですが、問題の核心を微妙に(わざと?)外しているのでは、とすら思います。議論が起きない中立路線(?)を狙っているというか。平和な国のふりをしたがっている、というか。
 そして今、世間はサッカーワールドカップ一色です。
 4年ごとにやってくるW杯の季節はそもそも私は憂鬱なんですが、このW杯騒ぎと「村神様」「きつねダンス」が流行語の上位に入るこの国の現状は、貴君がよく言う愚民政策「3S(セックス・スポーツ・スクリーン)」に見事に踊らされてる、という印象を持ちますね。

 W杯にしても、今回はFIFAや開催国カタールの差別が明るみに出て、人権問題がクローズアップされたわけだけど、日本の報道の仕方は完全に「対岸の火事」扱いです。
 スポーツに政治を持ち込むな、流行語にも政治を持ち込むな、なんでしょうね。そして最後に「知らんけど」と付け加えて、われ関せずのふりをする。関西地区の「知らんけど」は私、嫌いな用法ではなかったのだけど、こういう扱いになると、やはり鼻白みます。
 以上、しょうもない感想でした。

斎藤美奈子

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